ぬいぐるみに怯える幼い娘

ぬいぐるみ

 

旦那と幼い娘の三人で暮らしています。

 

旦那は仕事の都合上、

いつも帰りが夜遅く、

 

私と娘は先に寝てしまうのが習慣でした。

 

部屋には、

 

娘が生まれる前に買っておいた

沢山のぬいぐるみがあったのですが、

 

なぜか娘はそれらを嫌っており、

 

何かと「こわい、こわい」と言って、

避けたがります。

 

ぬいぐるみの顔が怖いのかと聞くと、

首を横に振ります。

 

慣れさせようとしても

やはり怖がるだけで、

 

結局は捨ててしまいました。

 

いつものように娘と布団に入って

ウトウトしていると、

 

玄関の鍵が開けられる音がしました。

 

『カチャリ』

 

旦那か・・・。

 

今日はいつもより早いな、

と思いつつ、

 

またそのままウトウトとしていました。

 

すると、

不意に音がしたのです。

 

さっきの鍵の音ではありません。

 

ドクン・・・

 

私の心臓の音でした。

 

ドクン・・・

ドクン・・・

 

突然に鼓動が早くなってきたのです。

 

それだけではありません。

 

言い知れない恐怖も襲ってきました。

 

なぜだろう・・・

帰って来たのは旦那のはずなのに。

 

家に入って来たのは

旦那であるはずなのに。

 

なんで怖いんだろう・・・

 

そういえば、旦那は足音が

どっしりしていました。

 

だとしたら、

今聞こえる軽い足音は・・・

 

嫌・・・来ないで。

 

ドクン・・・

ドクン・・・

ドクン・・・

 

だんだん鼓動が

早まっていきます。

 

ドクン・・・

ドクドクドク・・・

 

胸が痛い。

 

痛いほど鼓動が強い。

 

ドクドクドクドク!

 

『カチャリ』

 

誰かが部屋に入って来た、

そう思いました。

 

・・・絶対に見たくない。

 

身体は動くので、

 

目を開けて見ようと思えば

見ることが出来たと思うのですが、

 

ただただ怖いものを見たくない、

 

そんな情けないほどの

子供じみた感情で、

 

しかし本能に忠実な感情で、

 

目を頑なに閉じたまま、

恐怖にじっと耐えていました。

 

ドクドクドクドクドクドク・・・

 

しばらく経ちましたが、

何も音はしません。

 

動悸も治まりつつあり、

 

いつの間にか普段の調子に

戻っていました。

 

部屋のドアは開いてません・・・。

 

思い出してみると、

 

旦那が朝に「今日は帰れない」

と言っていた記憶があります。

 

ああ、夢でも見たのかな・・・

と思いました。

 

うなされて娘を起こしはしなかったかと思い、

私は娘の方を見ました。

 

娘は目を開けていました。

 

ある方向をじっと

見つめているようでした。

 

私の後ろです。

 

何か気になるものでもあるのかと

振り返ると、

 

捨てたはずのぬいぐるみ達が、

 

部屋の真ん中から

こちらを見ていたのです。

 

(終)

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