テントの下から何かに背中を突かれる
これは、石じじいの話です。
彼は石を求めて山を歩く時に、テントを持参して数泊することも珍しくなかったそうです。
曰く、ある山でテントで寝ていると、“テントの床シートの布地からグイッと何かが背中を突いてきた”そうです。
じじいは驚いて飛び起き、すぐさま床を見ましたが、その後は何も起こりません。
触ってもみましたが、固いものもありません。
動物でも居たのかと考えて、テントの床を叩いてからまた眠りにつきましたが、一時するとまた突いてきます。
グイッと。
飛び起きて見ると、やっぱり何もありません。
「背中のツボを押してくれるけん気持ち良かったが、これが刃物で刺されるかもしれんと思うたら、おちおち寝てもおられんかったわい」
結局、じじいは考えた末にテントから出て、倒木の上に座って一夜を明かしました。
「地べたに座っとっても尻刺されるかもしれんけんね、おおごとよ」
朝になってテントを畳んでみると、別に変わったところはありませんでしたが、『バショウと思われる大きな枯葉』を見つけました。
近くにバショウなんて何処にも生えていないのに…。
(終)