赤ん坊を背負っての肝試しで
ある山のどこかで、
女のみで働いている職場がある。
仕事が終わって
女たちが雑談していると、
誰かが山の中の祠に
化けものが出るという、
話を始めた。
その時、
それらの女の中のAが、
「そんなことがあるものか」
と笑った。
「それならAさんは今から
その祠まで行けるのか?」
と別の女のBが言った。
Bはさらに、
「もし行けたら、
自分の今日の給金を
全部やる」
と言い出した。
Aは赤ん坊を抱えていた。
赤ん坊を抱えて山を登るのは
キツイはずだが、
気丈なAは、
「行けるとも」
と言った。
Aは、女手ひとつで赤ん坊を
育てていかなければならなかった。
Bの今日の給金が貰えれば、
少しでも生活の足しになる。
話が盛り上がって、
行った証拠に祠の賽銭箱を
持って来ることになった。
賽銭箱は小さくて、
女でも抱えられるほどの大きさだ。
Aは赤ん坊を背中に
背負い直して、
祠へと向かった。
真っ暗な山の中の
細い道を登っていくのは、
キツイばかりでなく、
ものすごく不気味で心細かった。
やっとのことで祠に着いたAは、
「・・・やっと着いた。
これを持って帰れば、
Bの今日の給金が貰える」
と、どっこいしょと
賽銭箱を抱えた。
すると山の奥の方から、
『女、それを置いていけ』
と声がした。
Aはゾッとしたが、
賽銭箱を置いて帰れば
Bの給金が貰えなくなると、
ひしと賽銭箱を抱えて、
一目散に山を駆け下りた。
山の中の声が、
Aの後から追いかけて来た。
『それを置いていけ』
『女、それを置いていけ』
どんどん追いかけて来る。
声がAのすぐ真後ろまで
迫ったと思ったら、
急に声は消えてしまった。
やっとのことで皆のところに
帰り着いたAは、
Bに賽銭箱を差し出して、
「さあ、あんたの給金は
私のもんだよ」
と言った。
Bも皆も口々に、
「よくやったねえ」
「大変だったねえ」
とAを誉め、ねぎらった。
「さあ、赤ん坊も
きつかっただろう」
と、Aの背中から赤ん坊を
下ろそうとした女が、
「ギャー!!!」
と大声で叫んだ。
Aの背中は真っ赤な血に染まり、
赤ん坊の首は無くなっていた。
(終)