夜の墓場で出会った二人の少女 2/3
移動中の車内で、
俺達は色々と話し掛けました。
なぜあんな所から出てきたのか。
当時、女の子をナンパして乱暴し、
山の中腹で置き去りにするという、
『六甲おろし』
が流行り出した頃でした。
「もしそんな目に遭っているなら、
協力出来ることがあるならするぞ」
Mが一生懸命に話し掛けても、
彼女達は無表情に前を向きながら
首を振るだけで、
道を案内する以外は口を利きません。
とても乱暴されたようには
見えませんでした。
でも何か理由があって欲しかったのです。
あんな山中からこんな子供が
出てきた理由を・・・
しかし彼女達はお互いも話さず、
淡々と道を案内するだけです。
とうとう目的地の神社に着きました。
初めて来るところです。
さっきの場所よりも、
何倍も不気味なところです。
高い杉の林に囲まれた
小さな神社でしたが、
彼女達はその神社のさらに奥の
杉林に入っていきます。
早足で。
Kが呟きました。
「あの子達って、
あのお爺さんに聞いて、
今日初めてくるはずやんな?
なのに、なんであんなに
スタスタ進むんや?
二人とも車の中で一言も
相談してないのに、
迷いもせず同じ方向に
進んで行ってるで?」
ゾッとしました。
しかし、
ここで二人を置いて
逃げるわけにはいきません。
慌てて後を追いかけますが、
その足の速いこと。
大人の俺達が小走りになるほどです。
突然、
二人が立ち止まりました。
黙って目上の高さを
指差しています。
見ると、
指差した先の杉の木に、
釘を刺したような穴が
無数に開いています。
いえ、よく見回すと、
その辺りの木のほとんどに、
穴が開いています。
そしてとうとう、
藁人形も見つかりました。
絶句する俺達をよそに、
彼女達は相変わらず無表情で
何も言いません。
「もう帰ろうぜ、疲れただろ。
おまえらも送ってやるから」
Mが恐怖を隠すように言いました。
しかし、
彼女達はこう言ったのです。
「ここじゃダメだね。
もっといいところがあるから行こう」
絶句しました。
「もう、やめようや」
俺は言ってしまいました。
しかし皆、
大の男が中学生の女に言われて、
怖がるわけにはいかないようです。
「わかった、行こうや」
その一言で、
少女達は踵を返すように、
今来た道を引き返しました。
慌てて俺達は後を追います。
Kだけが俺の意見に賛成らしく、
真っ青な顔をして、
ブツブツ呟いています。
「罠や、罠や、これなんかの罠や。
俺達、連れて行かれてるんや・・・」
Kの真っ青な顔と、
ブツブツ繰り返す言葉に、
今度はKのことまで
怖くなってきてしまいました。
みんなでバンに乗り込みました。
Mがカーステレオをつけようとしても、
壊れたのか、つきません。
嫌な沈黙が続きましたが、
みんな口を利きませんでした。
ただ少女たちの道案内だけが、
車内に響きます。
着いた場所は、
小高い丘の上にある神社でした。
その神社へ行くには、
その丘を左右対称に包むようにある、
階段を登るのです。
左右どちらから登っても、
多分同じくらいの距離です。
少女達は無言のまま、
それぞれ左右に分かれて
登り始めました。
車の中でも打合せはしていないし、
降りてからも二人は目配せや
合図をすることなく、
迷わず別の道に向かっていくのです。
もちろんその神社に続く階段は、
鬱蒼とした林に囲まれ、
普通の女性なら複数で居ても
行きたがらないような不気味さです。
その階段を、
まだ中学生の少女が迷うことなく、
恐れることもなく、
スタスタと歩き出すのです。
明らかにおかしいです。
慌てて俺達も3人づつに分かれて、
それぞれ少女達の後を追いました。
俺は我慢できず、
前の少女に話し掛けます。
「おまえらちょっとおかしいぞ。
何であんな所に居たんや。
肝試ししてるにしては、
全然怖がってないし。
なんであんな所に居たんや?」
答えない少女にイライラしながら、
しつこく聞きました。
あまりにもしつこく聞いたせいか、
彼女はこう呟きました。
「私ら・・・
死ぬ場所探してんねん・・・」
その時、初めて彼女は
俺の目を見ました。
しかし、
俺の目を見ているというより、
俺を透かしてはるか遠くを
見ているような眼でした。
そして薄っすらと笑いました。
その少しあがった口の端に、
よだれが微かに光っています。