病弱だった少女の企み

山道

 

ある秋の休日。

 

父と高校生の娘が

ドライブに出掛けた。

 

娘の作ったお弁当を

公園で食べて、

 

午後になったら帰る予定だったが、

 

あまりにも天気が良く

気持ちいいので、

 

山の方に行ってみる

ことにした。

 

山の麓のコンビニで

飲み物を買い込むと、

 

その店の店員が

こう忠告してくれた。

 

「あの山・・・

最近になって急に、

 

車が転落する事故が

多発してるんすよ。

 

気を付けて下さいね」

 

山道に入ると、

周囲の紅葉は見事で、

 

父と娘は紅葉狩りを

楽しんだ。

 

しばらく車を走らせると、

崖道に出た。

 

道の路肩には、

 

『事故多発!!注意!!』

 

と書かれた看板が

立てかけられており、

 

どうもこの道が店員の言っていた

事故多発地帯らしい。

 

しかし、

 

その道は道幅こそ狭いものの

カーブはかなり緩く、

 

危険な道には見えない。

 

父が、

 

「どうしてこんな道で

事故が起こるんだろう?」

 

と不思議に思いながら

運転していると、

 

不意に前方から少女が

飛び出して来た。

 

「うわっ!」

 

父は大慌てでブレーキを踏んだが、

間に合わなかった。

 

少女はボンネットに叩き上げられ、

体をアスファルトに打ち付けた。

 

すぐに娘の携帯電話で

病院に運ばれたが、

 

少女は半日苦しみ、

そして死亡した。

 

少女は麓町の資産家の娘で、

 

病弱だった為に、

 

別荘のある山の集落に

夏休みから来ていた。

 

被害者が全面的に悪いとはいえ、

 

少女と父親はかなり辛い目に

遭う事になった。

 

少女の両親は、

 

妙齢になってから産まれた

一人娘を溺愛していたらしく、

 

少女の母親は父と娘を

口汚く罵り、

 

焼香をあげることも

許さなかった。

 

大きな会社を経営している

少女の父親は、

 

父が勤務していた

タクシー会社に圧力をかけ、

 

職を追わせた。

 

家にも、無言電話や

嫌がらせの手紙が殺到した。

 

父一人子一人だった娘と父は

親戚を頼って他県に引っ越し、

 

父親は別のタクシー会社で働き、

 

娘は一年浪人して

看護学校へ入った。

 

それから数年が経ち、

 

娘は無事看護学校を卒業し、

 

自宅通勤の可能な病院に

就職した。

 

その病院の医師は偶然にも、

 

以前あの少女が搬送された

病院で働いていた。

 

しかも、あの少女の手術も

担当したという。

 

娘は古傷を抉られるようで、

その医師を何となく避けていた。

 

しかしある日、

娘は医師に呼び出された。

 

「話って何ですか?」

 

「実は・・・」

 

医師の話はこうだった。

 

少女が運び込まれて来た時、

 

既に折れた肋骨が血管や

内蔵に突き刺さっており、

 

とても助けられる状態ではなかった。

 

それでも搬送されて来た以上、

少女には最善を尽くさなくてはいけない。

 

医師はメスを握り、

肋骨の摘出を始めた。

 

その時、

 

微かに意識があるのか、

少女の唇が動いた。

 

「何だ・・・?」

 

少女の呟きを医師は捉えた。

 

少女はこう呟いたのだ。

 

「こんなはずじゃなかった・・・」

 

少女が死亡した後も、

 

少女の最後の言葉は

大きな謎として残った。

 

こんなはずじゃなかった・・・。

 

では、

どういうつもりだったのか?

 

不審に思った医師は、

 

その崖で起こったとされる

転落事故について、

 

調べることにした。

 

件数は四件だったが、

 

全てその年の夏から秋に

かけての事故であり、

 

そして事故現場は全て、

少女が車に轢かれた場所だった。

 

現場には急にハンドルを

きった跡があり、

 

何かを避けようとして

事故ったのではないか、

 

という推測がなされていた。

 

最も、事故に生存者はおらず、

詳しい事情など分からないが。

 

あの場所で事故が起きたのは

後にも先にもこの四件だけで、

 

さらに、少女の死後、

事故は一切起こらなかった。

 

さらに言えば、

少女が病気で休学する以前、

 

少女の通っていた

有名私立小学校では、

 

うさぎ小屋の放火が

二度も起こっていたこと。

 

他にも、

 

低学年の時の少女の担任が

少女に性的なイタズラをした、

 

という少女からの訴えで

免職になっていたこと。

 

これらの事実を告げると、

医師は部屋を出て行った・・・。

 

(終)

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