憑いて来てしまった赤いアロハシャツの女

 

去年の夏の話です。

 

俺は配達の仕事をやっていて、

最初に研修という形で先輩と配るんです。

 

その時に教えてもらったC先輩とは

すぐに仲良くなり、

 

飲みに行ったりしていました。

 

ある時に先輩から、

 

「オレ、幽霊見ちゃうんだよ」

 

って言われた。

 

俺そういうの好きだから、

茶化さず聞いていたんです。

 

「オレの車、

研修の時に乗っただろ。

 

あれさ、何でバックミラーに

ガムテープを貼っていると思う?」

 

その理由は、

 

車の中にいる幽霊を見ないように

しているって言うんです。

 

うちの車は立派なものじゃなく、

普通の白いワンボックスカー。

 

座席は運転席と助手席だけで、

荷物を後ろに積む形になっています。

 

それで、マジかよとか思ったんですが、

すぐにウソだと感じた。

 

バックミラーが割れているだけだろうって。

 

俺の配っている地域には、

先輩の家もあるんです。

 

先輩はその日は休みで、

俺の携帯に、

 

「悪いけど駅まで送ってくれないか」

 

と着信があったんです。

 

夏は忙しいんですよ・・・

でも送りました。

 

次の日、

仕事場のオッサンに、

 

「お前ら、昨日さぼっていただろ」

 

って言われたが、

すぐに言い返した。

 

「さぼってないですよ。

先輩を駅まで送って行っただけです。

 

それに、夏じゃ忙しくて

さぼれないですよ」

 

オッサンは、

 

「そうかそうか、あれ、

後ろに乗ってたのCの彼女か?

 

ダメだよ、

助手席に乗せてやらなきゃ」

 

乗せてないんですよね・・・

女なんか。

 

先輩は強張った顔で、

 

「その女、赤いアロハシャツを

着ていました?」

 

オッサンは、

 

「何言ってんだ?

着てたじゃないか。

 

昨日の事覚えてないの?」

 

それを聞いて朝から気味悪くって、

バックミラーを見ないようにしていた。

 

夜になって仕事が終わり、

事務所へ戻ってみんなと話していたら、

 

その中の一人が、

 

「これ見てみろよ、面白いよ」

 

って言いながら、

バインダーを差し出してきた。

 

その中にはみんなの履歴書が入っていて、

結構暇潰しになるんです。

 

そのバインダーが置いてある棚には、

退職者の履歴書が入ったバインダーもあり、

 

パラパラと見ていました。

 

俺は8月の始めに入社したんですけど、

7月に3人も辞めているんです。

 

その履歴書の右上には、

 

赤いペンで『研修担当者C』

って書いてある。

 

C先輩の事です。

 

最初は、夏だから辛くて

辞めたのかなと考えた。

 

でも今では、

 

この3人は赤いアロハシャツの女を

見てしまったんだな・・・

 

って思っています。

 

ある日、先輩の家で

酒を飲む事になりました。

 

二人ともアロハシャツの女については

触れないようにしていた。

 

いつも通り盛り上がっていたんですけど、

やっぱり気味悪いんです。

 

あの女の事が気になって。

 

先輩に引っ憑いているなこの女は、

と薄々感じていましたから。

 

話は少し飛びますが、

 

先輩の家にあるテレビは、

コンセントが抜いてあるんです。

 

おまけに、

画面にはタオルが掛けてある。

 

辺りを見回すと、

パソコンと鏡にも掛けてあるんです。

 

酒の方は先輩が先に潰れちゃって、

今にも寝そう。

 

暇だからパソコンでネットを

やらしてもらうことにしたんです。

 

先輩は一言、

 

「夢中になるなよ・・・」

 

と言って横になった。

 

でも夢中になってしまい、

随分とやっていました。

 

これがいけなかったんです。

 

パソコンのモニターなんですが、

何か・・・ある。

 

反射して部屋の中が映っている。

 

目を凝らすと俺の2メートル後ろに、

赤いアロハシャツの女が立っているんです。

 

こっちを見ている。

 

「うわっ!」

 

怖くて目をモニターから

逸らしちゃいました。

 

再度モニターを見ると、

背後にピッタリと移動している。

 

モニターには胸から下が映り込んでいて、

顔が見えない。

 

もう、目を逸らせないんです。

 

だって、逸らした瞬間に、

背後まで来ている。

 

次もし逸らしたら、

どうなるか分からない。

 

ずっとモニターを凝視しているんですが、

 

その女からは息遣いも聞こえないし、

ただ立ってこっちを見下ろしているんです。

 

部屋の中に聞こえるのは、

パソコンから出るファンの音だけ。

 

朝方、先輩が声をかけてくれ、

ようやく開放されました。

 

先輩から聞いたんですが、

この女が現れてもう3年になるそうです。

 

前に住んでいたマンションの

廊下に立っていて、

 

先輩は通り過ぎる時、

女の顔を見てしまったんです。

 

片目が無かったらしいです。

 

上に書いた出来事で、

 

俺はこの女について

聞かずにはいられませんでした。

 

先輩は廊下であの女を見て、

 

「ああ、まずいな・・・」

 

って直感したそうです。

 

何せ、片目が無かったから。

 

でも、まずいなと言いつつも、

すぐに忘れてしまったらしいです。

 

それで夜になって配達が終わり、

家に帰ったんです。

 

先輩はマンションの5階に住んでいて、

エレベーターに乗った。

 

閉まる瞬間、

何気なく乗って来たそうです。

 

アロハシャツの女が・・・。

 

先輩はまだ幽霊だとは

思ってなかったんですって。

 

でも動揺が隠せない。

 

エレベーターが動かない・・・。

 

先輩はボタンを押すのも

忘れていたんです。

 

それぐらい、

この女に意識が向いていた。

 

先輩は俺にこう言いました。

 

「何であの時あんな動揺

しちゃったんだろ。

 

普通に何気なく行動していれば、

 

あの女は憑いて来なかったんじゃ

ないかな・・・。

 

でも動揺しちゃうよ・・・」

 

エレベーターが動き出した時、

女は先輩の後ろに立っていたそうです。

 

5階に着くと、

 

先輩は逃げるように

部屋へ向かいました。

 

先輩は、

 

「あの時、

おかしいって感じたよ。

 

オレ、横目で見たんだよ、

エレベーターの中を。

 

女は中で立っていて、

出る気配がなかったよ。

 

5階までしかないのに・・・」

 

先輩は恐怖を感じつつ、

部屋に戻った。

 

この恐怖を消すために

テレビを見始めたんですけど、

 

少し経って・・・

 

『ドスッ』

 

先輩の肩にアゴを乗せて来たらしいです。

 

アロハシャツの女が・・・。

 

振り返ると誰も居なかった。

 

先輩はすぐに引っ越したのですが、

その女は追って来ていた。

 

「オレは極力あいつと会う確率を

減らす努力をしているよ」

 

まず夢中にならない事、

だそうです。

 

特に家の中では。

 

だから、テレビやパソコンに

タオルを掛けてある。

 

先輩はエレベーターであいつが

乗って来て動揺したんですが、

 

何でそんなに動揺しちゃったのか?

 

女が何気なく乗って来た時、

喉に痰が絡まったような声で、

 

(ゴ・・ゴポ・・)一緒に居て・・・』

 

と言われちゃったそうです。

 

(終)

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