築40年のマンションで起きていた怪奇
これは私たち夫婦が10年以上住んでいる、築40年のマンションであったほんのりと怖い話を2つ。
< 1つ目の話 >
夫は仕事から帰り、いつものようにマンションの駐車場に車を停めて、地下からの階段を1階に向けて上がった。
そして上がりきった1階のホールに、4~5歳くらいのおかっぱの少女が立っていて、「こんばんは」と声をかけてきたという。
夫も「こんばんは」と返し、薄暗い足元に目を戻した。
このマンションに越して来てから当時で5年以上経っていたが、「その少女は初めて見るな」と思った夫。
しかしふと周りを見ると、その少女は消えていた。
階段を上りきった所には部屋はなく、2階へ続く階段を上がる音も、廊下の先のドアが閉まる音も全くしなかったとのこと。
そんな話を、帰って来た夫が神妙な面持ちで聞かせてくれた。
もちろん私もそんな少女は見たことがなく、しかも夫が帰って来たのは23時を回った頃。
夫が言うには、少し古めかしい格好をしていたそう。
< 2つ目の話 >
もしかすると1つ目の話と関係しているのかもしれない。
マンション1階にある管理人室には70代くらいの夫婦が住んでいて、午前中はマンションの共用部の掃除や管理をしてくれていた。
奥さんの方はとても親切で、よく世間話をしたものだ。
管理人室の玄関側の窓にはいつも新鮮な花が活けてあり、暗くなってから帰って来ると花の香りがほっとさせてくれた。
旦那さんの方は何だか不思議な雰囲気で、いつもニコニコしていて趣味で絵を描いていた。
私たち夫婦は6階に住んでいる。
1階までエレベーターを使って下りる際、ある時を境に、誰も押さないのに2階で止まることが頻発した。
もちろん、押し間違いではない。
2階で止まって扉が開いた先に見える廊下は薄暗く、いつも何か嫌な雰囲気が漂っていた。
一度好奇心から、上半身だけをエレベーターから乗り出して辺りを見回したことがある。
…が、誰も居ず、ただ薄暗い廊下が続いているだけだった。
夫にも確認したが、やはり押していないのに2階で止まることが多いとのこと。
そんなことが続き、3ヶ月ほど経った頃だろうか。
2階でしょっちゅう止まるエレベーターにもすっかり慣れた頃。
先の少女のこともあり、お喋り好きの管理人の奥さんに水を向けてみた。
「何かあのエレベーター、2階でしょっちゅう止まるんですけど故障ですかね?」
すると、奥さんは予想外なことを喋りだした。
「そうなのよ。他の人も2階で止まるって言ってたわ。それにうちの旦那が2階が気持ち悪いって言うの。変なものを見たって」
声を潜めながら、そんなことを教えてくれた。
「え?変なものって?」
洒落怖好きの私は当然詳細を聞こうとしたが、『何かモヤのようなもの』とのことで、それ以上の情報は聞き出せなかった。
ただ、少し言葉を濁していたように思えたのが気になった。
そんなことを聞いてしまった後は、2階で止まるエレベーターが怖くて仕方なく、乗り込んだらすぐに『閉ボタン』の上に指を乗せて待機するようになった。
それから1ヶ月も経っていなかったと思う。
管理人の旦那さんが、病気で帰らぬ人になってしまった。
それから数ヶ月で管理人は変わり、今は明るくお喋りなおじさんがマンションの管理に通って来てくれている。
そして不思議なことに、管理人が変わってからはエレベーターが2階で止まることはなくなった。
奥さんが言っていた『変なもの』とは、病気が見せたものなのだろうか、それとも…。
そして最近また階段を使っている夫が、「2階はなんだかんだ嫌な雰囲気がするから行くなよ」と言っている。
(終)