幽霊団地に住む友達の家へ 1/3

団地

 

昭和も50年代の4月。

 

僕たちが6年生になった最初の日、

メンマが引っ越してきた。

 

持ち前の人懐っこさに加え、

人を笑わすのが得意だった彼は、

 

すぐクラスに馴染んで

僕たちと友達になった。

 

そして、7月。

 

もうすぐ夏休みだ!

 

授業なんか上の空で、

夏休みをどう過ごそうか?

 

みんながそう考えている頃の話だ。

 

「あのさぁ、

今度うちに遊びに来ねえ?」

 

窓の外からセミがジージー鳴いている中、

僕はパンツの上に水着をはいて、

 

いかに具をはみ出させずパンツを引き抜くか

頑張っている最中だった。

 

次の授業はプールで水泳だ。

 

女子がカーテンの裏に回って、

きゃーきゃー言いながら着替えていた。

 

中には別に見られても気にしないよ、

って感じで着替えている女子も何人もいる。

 

そんでもって僕ら男子は、

 

『女子の裸なんか興味ねえよ、

俺ら硬派だもんな!』

 

という態度を見せながら、

チラチラ盗み見てたりしているのだ。

 

「え?ああ、いくいく。

お前、どこ住んでんだっけ」

 

「団地。

 

本当は家建ててるんだけど、

まだ出来ていないんだ」

 

メンマの両親は家が完成する前に、

ここに引っ越して来たのだ。

 

それは、

 

新学期最初の日に

メンマを学校に転校させて、

 

少しでもみんなと仲良く

できるようにしてやろう、

 

という親心らしかった。

 

メンマがやけに僕の後ろを

気にしているので、

 

振り返ってみると、

 

ちょうど樋口さんがTシャツを

脱ぎ終わったところだった。

 

慌てて僕はメンマの方に向き直った。

 

「団地って何棟?」

 

「5棟の4階」

 

「うおっ、すげー!

幽霊団地じゃん!」

 

当時のこの団地郡(40棟近くもある)は、

ほとんど人が住んでいて満員状態。

 

にもかかわらず、

 

一棟だけほとんど人が住んでいない、

いわくつきの棟があった。

 

そこが、5棟。

 

夜、明かりが灯って

賑やかな団地の中で、

 

1棟だけ真っ暗な団地が

なんとも不気味なのだ。

 

団地郡の隅に位置し、

 

正面に薄暗い神社と汚い川が

流れているのもポイントが高い。

 

なんでもメンマの両親は、

 

前に住んでいたところに残した

仕事の整理のために戻り、

 

今日は帰らないのだそうだ。

 

だからメンマは「遊びに来ないか」

と言って来たのだ。

 

ひとりで部屋に居たくないんだろう。

 

「今住んでるところ、

 

夜寝てると気味悪いことが

あったりするんだ・・・」

 

メンマのこの言葉に、

他人事ながら僕はワクワクしてしまった。

 

幽霊が出るのか?

やっぱり出るんか、すげー!

 

僕が遊びに行くことを了解すると、

メンマはほっとしたような表情を浮かべた。

 

そして、

鼻歌を歌いながら着替え始めた。

 

「すーきさ、すーきよ。

おっぱいおっぱいあいらびゅーん♪」

 

どうも彼は、

 

話しながらずっと樋口さんの

オッパイを見てたらしかった。

 

僕は、そんな軟弱なことを

したくなかったので、

 

女子の着替えを極力は

見ないようにしていた。

 

幽霊団地に関して、

僕にもちょっとしたことがあった。

 

この2年位前、

僕は剣道の道場に通っていたのだが、

 

 

そこに嫌なヤツがいた。

 

打ち合いの時、

 

下級生の僕に毎回のように

思いっきり面を打ってくるヤツ。

 

僕はいつもそいつと当たるのが、

嫌で嫌で仕方なかった。

 

そいつが住んでいたのが

5棟だったと知ったのは、

 

彼が一家心中で死んだと

ニュースになった時だった。

 

新聞に書かれていた知っている苗字・・・

 

あいつの防具に書かれていた、

ちょっと珍しい苗字。

 

不謹慎にも僕は、

 

「やった!これでもう、

イジメられなくて済む!」

 

と思ったものだった。

 

ガキだったとはいえ、

本当に不謹慎だったんだな・・・

 

ともかく、

心霊関係の本にも、

 

『自殺者が各地から、

この団地に集まって飛び降りる』

 

などの記事が書かれ、

 

おかげで、

この団地にはお婆さんと、

 

いつもブツブツ言ってる

変なおばさんぐらいしか

 

住んでいないとのことだった。

 

(メンマ情報)

 

そんなわけで、

 

僕は仲の良かった友達の

半田と連れ立って、

 

メンマの団地へ遊び泊まりに

行くことになったのだ。

 

チャリンコを押しながら

のんびりと歩いている僕らは、

 

メンマに色々聞いていた。

 

「最初は何もなかったんだよ。

 

なんか気持ち悪い部屋だなあ、

とかは思ったけどさ。

 

でも、もうすぐ新しい家も立つし、

3ヶ月くらいだからいいかなって思ってた。

 

そしたらさ、

一週間くらい前から・・・」

 

メンマはノリノリで話し出した。

 

たぶん、

本当は怖かったんだと思う。

 

でもみんなが自分に注目しているし、

 

夏の明るい日の下では、

そんな話も怖くなかったんだろう。

 

調子に乗って話し出した。

 

「こないだの夜さ、

なんとなく目が覚めたんだよ。

 

時計見たら1時過ぎだったかな。

 

なんか変な時間に目が覚めたなあ・・・

と思って目をつぶると、

 

隣の部屋で何か音がするんだよ!

 

ズル、ズルって。

 

畳の上を何か引きずってるというか、

這っているっていうか」

 

「うおおおお!」

 

「怖えー!

すげー怖えー!」

 

僕らはケタケタ笑った。

 

メンマはなんだか得意げだった。

 

5棟団地。

 

団地郡の隅で、

僕の家からは遠かったので、

 

ここに来たのは、

実は2回目だった。

 

だって、

実際怖かったしさ。

 

(続く)幽霊団地に住む友達の家へ 2/3

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