幽霊団地に住む友達の家へ 2/3

団地

 

団地の5階は全て、

ベニヤか何かで目張りしてあった。

 

飛び降り防止なんじゃないかな。

 

近くの団地に住む半田が言った。

 

団地にはエレベーターとか

贅沢なものは付いていなかった。

 

僕らは狭く薄暗い階段を上がる。

 

やべっ、

もうこの段階でなんか怖いぞ!

 

さっきまで明るい日の下で笑い合ったくせに、

僕らはもうビビリ始めていた。

 

なんたってここは、

本にも載る幽霊団地なのだ。

 

その事実を僕らは改めて思い出した。

 

だけど何も言わず、

僕らは黙々と上り始めた。

 

だって、

メンマが実際ここに住んでいるのに、

 

『気持ち悪いところだな』

 

とか言えるわけがないじゃないか。

 

友達なんだから。

 

「ここ」

 

メンマがドアを開けて、

僕らを案内した。

 

古く錆付いた緑色のドアは、

嫌な音を立てて開いた。

 

部屋の中はいやに薄暗く、

狭苦しく感じた。

 

違う棟に住む半田の部屋と

同じ間取りだったけど、

 

あっちはもっと明るくて、

綺麗で広かった・・・

 

部屋の中には、

 

すごく古いタンスや食器棚とかが

置かれていた。

 

なんでも、

 

前の住人が置いていった家具が、

そのまま置かれていたらしい。

 

どうせ新しい家にすぐ引っ越すし、

 

4階のここまで荷物を

運び込むのもアレなので、

 

そのまま自分たちが

使うことにしたらしいけど・・・

 

僕は思ったものだ。

 

ほとんど誰も住んでいない団地。

 

前の住人って、

何年前の住人なんだろう?

 

「なあなあ、

カセットレコーダーとかない?」

 

半田がメンマに聞いた。

 

「あるよ」

 

「俺、カメラ持ってきた。

ラジカセはさすがに重かったからさ。

 

その、ズルズルって音、

録音しようぜ!」

 

僕とメンマは、

半田の準備の良さに関心した。

 

「すげー!

なんか写真に写ってたらどうするよ!

 

俺ら有名人だぜ、すげー!

よし、とりあえず記念撮影だ」

 

パシャリ。

 

そのあとも、

 

僕らは部屋中のあちこちを

写真に写して回った。

 

初めは気味悪かったこの部屋も、

 

3人で騒いでいると、

ちっともそんな気持ちはなくなった。

 

メンマのお母さんが作り置きしてあった

カレーをみんなで食べて、

 

テレビでアニメを見ながら、

 

僕たちは夏休みの計画を立てたり、

マンガの話をしたり、

 

好きな女の子を打ち明けたりして

盛り上がった。

 

「あのさ、

 

女の体のどこを触っても見てもいい

って言われたら、

 

お前ら上と下、

どっちにする?」

 

「そりゃ下だろ」

「下だな」

 

メンマの質問に、

僕と半田は即答する。

 

なんたって男と女の大きな違い、

 

女の○○○は小学生ながら

大きな興味の対象なのだ。

 

そんな僕らに、

メンマはバカにしたように言う。

 

「バカだなあ。

女にはなんにも生えてないんだぜ!

 

なんにもないんだから、

見ても触っても面白くないじゃん。

 

上に決まってるだろ!

おっぱいだろ、おっぱい!

 

やわらけ~ぜ~?

きっと!」

 

熱く語るメンマ。

 

言われてみれば確かにそうだ!

 

今の自分なら「そんなことないぞ」と、

彼らに言い聞かせてやることも出来るのだが、

 

なにしろ当時の僕たちはガキだったのだ。

 

「そうか!

じゃあ、俺もおっぱい!」

 

「僕もおっぱいだ!」

 

「だろだろ?おっぱいだよな!」

 

「すげーよ!すげーよメンマ!」

 

僕らはメンマの博識に、

えらく感心したものだった。

 

とまあ、

そんな感じで盛り上がり、

 

「とりあえず寝るか」

 

と誰かが言い出したのは、

0時を回っていた。

 

ちなみに、

この日は土曜日である。

 

横になっても、

僕らはなかなか寝付けなかった。

 

メンマがいきなり屁をこいて

笑わせたりするもんだから、

 

ようやくうつらうつらしてきたのは、

午前1時近かったんじゃないだろうか。

 

みんな、静かに眠っているか、

 

開けっ放しの窓から聞こえる

虫の声を聞いてたりしていると、

 

突然メンマと半田が同時に言った。

 

「今日、樋口のおっぱいがさあ・・・」

「なんか音しねえ・・・?」

 

え?

 

メンマも言いかけた言葉を

飲み込んで押し黙った。

 

僕も耳を澄ます。

 

ズル・・・

 

僕らが寝ている隣の部屋で、

微かに何か音が聞こえている。

 

それも低い位置で。

 

それはメンマが学校で言ったように、

畳の上を何かが摺っている音のようだった。

 

やべ・・・

 

僕は思った。

 

さっきまで3人でバカ笑いしてたのが

嘘のようだ。

 

マジで出た。

 

やべーよ、コレ。

 

「開けてみる」

 

隣の部屋との襖を、

半田が開けようとした。

 

僕は止めたかった。

 

このまま聞かない振りをして、

寝てればいいじゃないか。

 

でも半田は襖を・・・

開けた。

 

ズル・・・ズル・・・

 

音はさっきより大きく聞こえ出した。

 

「やべえ・・・まだ聞こえる・・・」

 

「で、電気つけろよ、電気!」

 

メンマが寝室の電気をつけた。

 

慌てて引っ張ったスイッチのせいで、

照明がぶらんぶらんと揺れる。

 

音のする部屋に、

光が届いたり真っ暗になったり。

 

古いタンスの上の人形が、

奇妙な影を落とす。

 

ズルリ・・・ズルリ・・

 

「しゃ、写真・・・ろ、録音!」

 

「なんか、音、こっち来てねえか?」

 

ズル・・・ズル・・・

 

僕が慌ててカセットレコーダーの

スイッチを入れた。

 

「なんか来てるよ!

 

今まで来なかったじゃん!

なんで来るんだよ!」

 

それは、

襖を開けたから。

 

今までメンマは音がしても決して襖を開けず、

毛布を被って聞かない振りをしていたから・・・

 

(続く)幽霊団地に住む友達の家へ 3/3

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