幽霊団地に住む友達の家へ 3/3

団地

 

ズルズルズル・・・

 

畳を摺る音・・・

 

いや、

這いずってる音だ、これは。

 

音は寝室の中に入り込み、

僕らの周りをゆっくりと回り出す。

 

ズルリ、ズルリ、ズルリ、ズルリ・・・

 

何周かして、

音がメンマの後ろに回ると、

 

音が・・・止んだ。

 

「・・・・・・」

 

僕らは押し黙ったまま、

じっとメンマを見つめた。

 

メンマはもう、

 

今にもひっくり返りそうな顔をして

僕らを見ていた。

 

なんとかしてくれ!

 

その顔はそう言っている。

 

15分くらい、

僕らはこのままでいたと思う。

 

メンマが聞いてきた。

 

「俺の後ろ・・・なんかいる?」

 

僕は横に身を乗り出して

メンマの後ろを覗こうとするけど、

 

何も見えない。

 

「うぎゃあ!」

 

突然、

メンマが身をよじった。

 

「背中背中!

なんか、背中ぁ!」

 

メンマはひっくり返り、

畳の上をゴロゴロ転がる。

 

「な、なんにもいねえよ、メンマ!」

 

「そ、そうだって!

なんにもなってないぞ、メンマ!」

 

「え・・・?」

 

メンマが泣きそうな目で僕らを見る。

 

「なんか居ねえ?居ねえ?」

 

「いねえって!

大丈夫だってメンマ!」

 

「そ、そうか・・・」

 

僕らはまた見つめ合った。

 

「ね・・・寝ようぜ」

 

うん、そうだな・・・

 

僕らは半ば呆然としながら、

部屋の隅に3人ひっ付いて横になった。

 

「あ、その前に・・・」

 

パシャリ。

 

半田が僕とメンマの写真を撮った。

 

「ま、記念ということで」

 

あ、あはははははは。

 

僕らは乾いた笑いをして、

恐怖を追い払おうとした。

 

と、その時。

 

ガチャン!

 

「うお!」

「ぎゃあ!」

「うひゃへあ!」

 

それは、

 

テープが最後までいって、

録音ボタンの上がった音だった。

 

翌朝、僕は目を覚ますと、

最初どこにいるのか分からなかった。

 

そして、

 

ああ、メンマの家だっけかと思い出すと、

夜中の音の記憶が戻ってきた。

 

急におっかなくなって、

僕はメンマと半田を叩き起こした。

 

部屋に居たくなかったので、

もう帰ろうかと半田と話すと、

 

メンマが急に可哀想になった。

 

メンマの親は夜まで帰って来ない・・・

 

「そうだ、メンマ、僕んち来いよ。

朝飯、一緒に食おうぜ」

 

そう言うとメンマは、

いかにもホっとした表情を浮かべた。

 

半田はカメラを持ち、

現像に出してくると言って帰っていった。

 

そして、

何事もなく数日が経った。

 

僕んちでメンマと遊んでいると、

半田が現像された写真を持ってやって来た。

 

もうこの頃には、

 

あの夜のことは気のせいだったんじゃ

ないかと思えてくる。

 

「どうだった?

なんか写ってたか?」

 

「まだ見てねえ。

一緒に見ようぜ。

 

そう言えば、

 

写真屋の人が可愛い弟さんですね、

って笑ってたぞ。

 

お前、俺の弟だと

思われたんじゃねえ?」

 

実際、メンマはチビだったし、

半田は背がすごく大きい。

 

「でもメンマは可愛くねえだろ」

 

わはははは。

 

僕らは笑った。

 

さっそく、

写真を袋から出して並べてみる。

 

「なんにも写ってねえなあ」

 

「んー、

やっぱ気のせいだったのかなあ」

 

「そうだ、カセットテープ!

あれは?」

 

「持って来てるよ」

 

「聞いたか?」

 

「いんや、

さすがに怖くてさ・・・ははは」

 

うちのラジカセに入れて再生してみる。

 

「・・・・・・」

「・・・やば」

「うん・・・」

 

『ズルリ・・・ズルリ・・・』

 

聞こえるよ!

 

やけに小さな音だけど、

確かに聞こえる!

 

『ズルリ・・ズルリ・・ズルリ・・』

 

その時、

メンマが落ちている写真に気が付いた。

 

袋から出した時に

落ちてしまったのだろう。

 

それを見て、

メンマが青ざめた。

 

それは最後に半田が撮った、

僕とメンマの写真だった。

 

そこには、

 

メンマの背中に裸の赤ん坊がしがみ付いて、

こっちを見ている写真だった。

 

顔が真っ黒で表情が分からない・・・が、

 

いやに真っ赤な口を大きく開いて、

なにか叫んでいるような、

 

そんな顔の赤ん坊・・・

 

写真屋が言っていた、

 

『可愛い弟さん』

 

との言葉を思い出す。

 

「いや・・・可愛くないだろ、これ・・・」

 

その時、

突然大音量でラジカセから音がした。

 

『ぎゃああああああ!』

 

まるで赤ん坊が何かを訴える

かのように叫んでいる声・・・

 

ガチャン。

 

テープを最後まで再生し、

ボタンが上に上がった。

 

正直、

 

今でもそのテープの声は

耳に残っている。

 

そしてそれは、

 

あの夜の記憶を弥(いや)が上にも

思い出させるのだ。

 

そんな時、僕は、

 

同じ日の学校で見た、

樋口さんの日焼けした肌と、

 

水着で日焼けしていない

真っ白なおっぱいに、

 

薄く赤らんだポッチが膨らみ気味に

尖ってたことを思い出して、

 

おっかない気持ちを追いやるのだ。

 

ああ、そういえば彼女の下着は

薄い水色に魚のアップリケだったっけ・・・

 

後日談というわけではないが、

メンマはあの夜の後、

 

自分の部屋ではなく、

両親の部屋で寝るようになった。

 

音は聞こえなかったそうだ。

 

そして一週間ほどで、

新しい家に越していった。

 

この団地にまつわる話は、

 

アイドルの山田まりやも

近くの団地出身らしく、

 

テレビで話していたのを見たと

メンマが言っていた。

 

メンマとは中学が違ったが、

あいつはその後も色々体験したらしい。

 

例のテープと写真は、

 

団地前の神社の祠の中に、

隙間から突っ込んで入れた。

 

だって、怖いもん!(笑)

 

半田は現在消息不明・・・

 

(終)

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