夜の墓場で出会った二人の少女 3/3

山の墓地

 

全身に水を浴びたような気持ちです。

 

他のメンバーを見回しましたが、

みんな真っ青です。

 

しかし聞こえてはいるでしょうが、

 

この少女の目とよだれが見えたのは、

きっと俺だけです。

 

逃げ出しそうになった時、

頂上に着きました。

 

向こうのグループもちょうど反対側から

上がって来たところです。

 

真っ青になったMが、

駆け寄ってきました。

 

「聞いたか!お前ら聞いたか!」

 

どうやらM達も、

もう一人の少女から聞いたようです。

 

とりあえずまだ帰らないという少女達を、

バンまで連れて帰りました。

 

そこでなぜ自殺したいのかを

しつこく聞きましたが、

 

一向に答えません。

 

「アホなことするな!

いじめか?

 

俺らがそいつらシメたるから、

早まるな!」

 

俺達の問いかけにも、

彼女達は首を振るばかりです。

 

「じゃあ、原因はなんやねん」

 

「・・・べつに」

 

「別にって!!」

 

「生きてるんも、

もうええって感じやねん」

 

また、あの遠くを見つめるような

無表情です。

 

二人とも同じ顔をするので、

ますますそっくりに見えます。

 

「とにかく、

 

もうこっちも眠たいから

お前ら送ってくわ。

 

早よ、家までの道言え。

送ってったる!」

 

降りるという彼女達に、

 

強い口調で言いつけたMは、

車を発進させました。

 

彼女達は地元の子達なのか。

 

帰り道を代わる代わるに、

「右」「左」で告げます。

 

二人同時に「ここ」と言いました。

 

ハモるように同時にです。

 

止まった場所には家などありません。

 

「おまえらホンマにここか?

家の前まで送ってくぞ?」

 

そうMは言いましたが、

 

少女達は「ここ」とだけ言って、

車を降りました。

 

そこは、

 

ちょうどさっきの丘の上の

神社の裏側のようです。

 

クネクネとしてきたので

結構走ったように感じましたが、

 

そんなに走っていないようです。

 

もうみんな十分に気味悪く感じていたし、

 

義理も果たしたという感じで、

車を走らせようとしました。

 

その直後にKが、

 

「あれ見てみろ!」

 

と叫びました。

 

二人の少女は、

 

さっきの神社があった丘の裏側にある

林の中にぽっかりと開いた、

 

登り口のような穴に向かって

歩き出しています。

 

「あいつら、また登る気や!」

 

プップッーーー!!

 

Mがクラクションを鳴らしました。

 

すると映画のワンシーンのように、

ゆっくりと少女達は振り返りました。

 

お互いが左右対称になるように、

首を少し傾げながら。

 

暗くて少女達の目は見えませんが、

なぜか薄っすら笑っているように見え・・・

 

さらに二人の口の端には、

同じようによだれが光っているように見えて、

 

「逃げろ!!」

 

と思わず叫んでしまいました。

 

後は一目散に車を走らせました。

 

またKがブツブツと何か言っています。

 

「だからあの神社じゃダメだったんだ」

 

「何がダメなんだよ!!」

 

イライラしていた俺は、

つい怒鳴ってしまいました。

 

「あの子達の身長じゃ、

高い杉の木の枝には届かない・・・

 

吊れないよ・・・首

 

ゾッとしました。

 

「アホなこと言うなっ!

気味悪りぃ!」

 

他の友人の声も上ずっています。

 

今まで黙っていたDが、

気が付いたように言いました。

 

「なあ、衣替えっていつや?

もう11月やで。

 

あの子らはなんで、

夏服のセーラー服を着てたんや?

 

その後、

どうなったかは知りません。

 

確か、その日はみんなでMの家に泊まり、

夕刊を恐る恐るチェックしたと思います。

 

自殺者発見や行方不明者のなど記事は、

無かったと思います。

 

ただ、Kだけが眠れなかったようで、

ずっと部屋の隅で虚ろな目をしていました。

 

それからは、

 

そのグループの奴らと遊ぶことも

たまにありましたが、

 

その日のことはなぜか誰も

口にしませんでした。

 

そして、あの日以来、

俺はKに会っていません。

 

元々そのグループの奴じゃなかったので、

他のみんなもそのようでした。

 

ただ俺は、

あの時にKがブツブツ言っていた、

 

『罠や、罠や、これなんかの罠や。

俺達、連れて行かれてるんや』

 

というのを思い出し、

今になってもゾッとしています。

 

あのKの呟きを聞いたのは、

俺だけだったから・・・

 

(終)

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