高速で追いかけて来る、とし子ちゃん

 

先週、実際に体験した話。

 

俺は19歳の大学生で、

名前は仮にSとします。

 

俺はつい一ヶ月前、

免許を取ったばかりだったんです。

 

オヤジの車を借りて、

 

サークルの連中と隣の海岸まで

花火をしに行こうって事に。

 

とりあえず部室で全員を拾って、

高速に乗りました。

 

ちょうど、県境のトンネル付近

だったと思います。

 

高速は夜間の整備かなにかで

速度規制されていて、

 

70キロくらいで走っていました。

 

後部座席で煙草を吸っていた後輩が、

急に素っ頓狂な声を上げて、

 

「先輩、

もっとスピード上げませんか？」

 

って言うんです。

 

こっちは初心者運転期間だし、

 

オービスにもネズミ捕りにも

引っかかるのは嫌なので、

 

曖昧な返事をして

適当に流していたんです。

 

そしたら助手席の先輩が、

 

「おいS、いいからスピード上げろ。

振り切れ。それとな･･･」

 

先輩も興奮していて

早口になっていたのですが、

 

最後の部分はゆっくりと、

 

自分に言い聞かせるように

ひと言づつにアクセントを付けて、

 

こう言いました。

 

「何が、あっても、前、以外は、見るな！」

 

俺は、なにがなんだか分からないし、

皆の慌て方が異常なので、

 

無意識にチラッとバックミラーを

見てしまったんです。

 

何かが映っていました。

 

もの凄い速さで、

こっちに向かってきます。

 

長い間は見れなかったのですが、

俺は怖くなってアクセルを踏みました。

 

もちろん、

前以外は見ないようにして･･･

 

そうしてしばらく経って、

トンネルの中を走っている時でした。

 

ふと、カーステレオの音が

プツっと消えたんです。

 

途端に、

 

後ろの後輩二人が

ガタガタ震えている音や、

 

先輩が祝詞のようなお経をブツブツと

口ずさんでいる音などが、

 

はっきりと聞こえてきます。

 

そして、ロックしているはずの

パワーウインドウがススス･･と、

 

音も無く開いたのです。

 

かなり速度は出ていたのですが、

不思議と風の音はしませんでした。

 

そして、俺は見ました。

 

そいつは女子高生でした。

 

目は吊り上り、

 

口からは苦しそうな呼吸音が

聞こえてきます。

 

一昔前に流行った、

 

顔を黒く焼き、

目をケバケバしく彩るメイク。

 

そして、

 

ガツッガツッガツッと聞こえてくる

厚底のブーツの音。

 

見てはいけない！

 

そう思ったのですが、

俺はそいつと目が合ってしまったのです。

 

するとそいつは、

 

「なんだよ、眼鏡か。超バッド。

 

次、気をつけな。

次はアンタの頭もらってくよ。

 

マジにMK5」

 

※MK5

マジ（maji）で切れる（kireru）5秒前の略。

 

そう言って、

俺の車を追い越していったのです。

 

追い越された直後から、

俺は車の速度を落とし、

 

トンネルを抜ける頃には

50キロくらいで走っていました。

 

もちろん、

 

追い抜いていったヤツに、

追いつかないために。

 

そして、

一番近いSAに停車した俺たちは、

 

とりあえず暖かいものを飲みながら、

さっきのアイツの話をしていたんです。

 

そうすると、

 

トラックの運ちゃんが寄ってきて、

話を聞かせてくれました。

 

さっきのアイツは『とし子ちゃん』

という名前らしく、

 

数年前から出没し始めたらしいのです。

 

最初は埼玉に居たらしいのですが、

高速を使って日本中を移動しているらしく、

 

四国や九州でも目撃した運ちゃんが

いるらしいです。

 

（目撃情報は無線で流れて来るらしい）

 

そして、

眼鏡をかけた男の子は、

 

『最初の一回だけ』

 

見逃してもらえるらしいのです。

 

俺は運転する時だけ眼鏡をかけていたので、

助かったと言われました。

 

でも、次が怖いです。

 

もう高速は使えません。

 

最後に運ちゃんに聞いたのですが、

 

去年の暮れに高速の高架から下道に落ちて

ペシャンコになったトラックがありました。

 

潰れたトラックの運転席には、

血の跡が全くなかったという。

 

事故に遭った運ちゃんが、

無線で話した最後の言葉は･･･

 

「追いつかれた」

 

だったそうです。

 

（終）