世間を騒がせていたハイウェイの殺人鬼
オーストラリアの大学に留学していた
従姉妹のK子さんは、
夏休みを叔父の家で過そうと、
ハイウェイを車で飛ばしていた。
しかし、途中で運悪く
タイヤがパンクしてしまった。
車を脇に止めてタイヤ交換を
しようとしていたK子さんは、
しばらく車を走らせながら
辺りに細心の注意を払っていた。
辺りを気にしていたのは何故か・・・
実はこの半年の間に、
ハイウェイで女性ばかりが惨殺される
連続殺人事件が3件も起こっており、
マスコミも『ハイウェイの殺人鬼』と名づけて、
世間では騒ぎになっていたのである。
犯人は未だ捕まっておらず、
ハイウェイで不用意に車を止めてはいけない、
と警察も注意を促していた。
給油所を見つけたK子さんは、
車を近づけてガッカリした。
“閉鎖中”とある。
店内にも入って見たが、
やはり誰も居ない。
次の給油所までは100kmもある。
せめて電話がないかと探したが、
撤去されていた。
早く交換しないと暗くなってしまう。
K子さんは車に戻り、
仕方なくタイヤ交換を始めた。
経験のあるK子さんは30分程で交換を
済ませてほっとしていたところ、
後ろから一台の大型バンがやって来た。
バンはK子さんの車の横で
スピードを緩めたかと思うと、
50m程前方で停止した。
バンから男が出て来た。
男はK子さんの車を指差して、
「大丈夫か?」と言う。
男の喋る英語はナマリがきつく、
よく聞き取れなかったが、
「タイヤ交換を終えたので大丈夫。
ありがとう」
と、K子さんは答えた。
男はじっとK子さんを見つめて、
「オレの車で送るから乗れ」
という意味のことを言った。
(とんでもない。
見知らぬ男の車になんか
絶対乗れるものか)
恐くなったK子さんは、
慌てずに自分の車に近づいた。
すると、男は車から離れて
こちらへ走ってくる。
よく見えなかったが、
手に拳銃を持っている様にも見えた。
すぐさま車に飛び込んだK子さんは、
急発進で男から逃れた。
(なんて事だ・・・
まさか自分がハイウェーの殺人鬼に
出会うなんて・・・)
バックミラーを見ると、
男もバンに飛び乗って追いかけて来る。
後ろからバンがクラクションを鳴らし、
ライトを点滅させてくる。
バックミラーを覗くと、
男が運転席から何やら叫んでいた。
もう間違いない。
あいつはハイウェーの殺人鬼だ。
次の給油所は確か100km程先だ。
それまでバンを引き離す自信が
無くなりかけていたK子さんは、
前方のハイウェイから逸れた場所に
農家を見つけた。
人の居る場所まで行けばあいつも諦めるだろうと、
K子さんは急ハンドルでハイウェイから出た。
後ろを振り返ったK子さんはゾッとした。
バンが付いて来るのだ。
農家はもう目の前だった。
ゲートを突き破って
農家の庭に入ったK子さんは、
車を止めて大声で助けを求めた。
家から男が出て来た。
ゲートを壊されて激怒している男に
K子さんは、
「変な男に追いかけられている。
もしかするとハイウェイの殺人鬼
かも知れない」
と説明した。
ビックリしている男とK子さんの前に、
例のバンがやって来た。
男が「銃を持って来い!」
と家の中に叫ぶと、
奥さんが猟銃を持って出て来た。
バンから出て来た男は、
「オレじゃない!オレじゃない!」
と叫んでいた。
そして男はK子さんを指差して、
「アンタの車の中だ!」と言った。
農家の夫婦とK子さんが車を覗くと
後部シートの下には、
長髪の白人の男が横たわって
じっと見上げていた。
帰国した従姉妹から聞いた、
オーストラリアの都市伝説らしい。
(終)