そこで作り話の怪談をすると呪いがかかる
僕の地元の高知県には、『しのうかさん』という都市伝説のようなものがある。
詳細は良く知らないが、その言葉だけは子供の頃から聞いていた。
たしか浦戸大橋の近くにある民家の話だったと思う。
これは弟の体験談だが、場所が違ったので別の『しのうかさん』のようだ。
ねえ、死のうか、一緒に死のう
弟が中学生の頃に、同い年のSと一つ上のT先輩に連れられて肝試しに行った。
そこはバイク仲間の間で有名なスポットで、『しのうかさん』という場所らしい。
伊野町の方だそう。
夜中に3人でそこへ行くと、寂れた民家があり、有刺鉄線が巻かれて『キケン』と書かれた看板があった。
3人は中に入り、電気は通っていないので懐中電灯をつけ、居間のような畳敷きの部屋に座り込んだ。
ここにはT先輩だけが一度来たことがあり、弟とSは何があるのかも知らなかった。
T先輩曰く、“ここで『しのうかさん』という怪談を作ると不思議なことが起こる”という。
つまり、『しのうかさん』自体に正体はないらしい。
まず弟が思いつくままにこんな話をした。
「昔、この家の息子と近所の家の娘が恋に落ちたけれど、両方の家族から反対されて思い悩んでいた。ある日に娘が深刻な顔をして、『ねえ、死のうか、一緒に死のう』と言った。男の方は女の情念が怖くなり、家を捨てて逃げた。女はこの家のこの部屋で首を吊った」
これを聞くと、今までビクビクしている弟たちをからかうようにリードしていたT先輩が真っ青になって震え始めた。
続いてSが話し始めた。
「昔、この家の息子と近所の家の娘が恋に落ちたけれど、両方の家族から反対されて思い悩んでいた。ある日に娘が深刻な顔をして、『ねえ、死のうか、一緒に死のう』と・・・」
そこでT先輩が、「それさっきN(弟)がゆうたやいか」と叫んで、ガタガタ震えながら部屋を飛び出した。
訳のわからないまま3人とも家から出て、バイクに乗った。
そしてT先輩の家まで帰り着くと、ようやく落ち付いてT先輩が言った。
「前に来た時も、ツレがお前らと同じ話したんじゃ・・・」
よくよく話を聞いてみると、あそこで『しのうかさん』の作り話をすると呪いがかかり、近いうちに『しのうか』という声を何らかの形で聞くという。
そこで『しのうしのう』と返答しないと死ぬ、という話だった。
都市伝説の類のようだが、結局はT先輩もSも弟もその後に異変はなかったようで、今もピンピンしている。
しかし、“作り話が被る”ということだけが気味が悪い。
気になるのは、Sが何故弟と同じ話をしたのかという点だが、それについては弟は特に聞いていないという。
なぜなら、その時は弟たち3人は気にならなかったそうだ。
(終)