ホテル地下のワイン倉庫にて 2/2

扉

前回までの話はこちら

ワイン倉庫の扉をそっと開けて、

明かりのスイッチを手探りで点けた。

 

と言っても、

 

20Wほどの裸電球が3つあるだけで、

薄明かりが点いた程度。

 

さすがに記憶は曖昧だが、

広さは20~30畳くらいだったか。

 

かなり怖がりながらも、

でも興味はあったので、

 

ワクワクしながら奥の扉へ行った。

 

扉に耳を付けて聞き耳を立てると、

声は聞こえない。

 

部屋の真下というだけの憶測で来ただけだから

聞こえなくて当然と思いつつ、

 

その扉の錠前に手をかけたその瞬間・・・

 

バタン!と大きな音がして、

ワイン倉庫の扉が閉まった。

 

開けようとしたけれど、

なぜか開かない。

 

刹那、これはやばい!と思った。

 

霊的な恐怖心ではない。

 

地下のワイン倉庫には通風孔はあるにはあるが、

そんなに大きくない。

 

なので、酸欠してしまうか?!

と思い浮かんだ。

 

でもこんなに大きな音がしたのだから

誰か見回りに来るだろう・・・

 

そう思い、ちょっと待ってみた。

 

裸電球があるだけの地下倉庫に

閉じ込められていたので、

 

時間の感覚はおかしくなっていたが

1時間は過ぎていたと思う。

 

次第に眠くなってきた。

 

酸欠も大丈夫そうだしちょっと眠るかと思い、

 

壁面は全てワイン棚だから例の扉の前に座り、

扉を背に眠ろうとしたその時だった。

 

ガチャ・・・

 

小さな音がして、

錠前が落ちてきた。

 

思わず声を出してしまい、

立ち上がって扉に身構えた。

 

・・・しかし、

 

数分待ってみるも気配が何もないので、

恐る恐る扉を開けてみた。

 

錆び付いてかなり固かったけれど、

少し蹴りながらもなんとか開いた・・・

 

そこで見たのは10畳ほどの小さな部屋に、

小さな椅子が一脚あるだけだった。

 

微かに臭かった気もしたけれど、

カビ臭さもあるし、

 

倉庫が錆び付いてそのままになっていた

だけなのかも知れない。

 

しかし・・・

 

その椅子に近付こうと部屋に一歩

足を踏み入れた時、

 

何かを踏んでしまったようで

バリッと音がした。

 

裸電球の明かりがあるだけだから

気付かなかったけれど、

 

床に落ちていた『何か』を

よく目を凝らして見てみた。

 

明らかに『骨』だった。

 

何の骨かはもちろん分からない。

 

だが、厨房で働いているから分かったが、

少なくとも調理場で出るような骨ではない。

 

(あ、これはやばいな・・・)

 

色んな意味でそう思いながら

部屋から出ようと背を向けた時、

 

後ろから『あの声』が聞こえた。

 

短い声だったがはっきりと聞こえた。

 

振り返ったらまずいだろうと思いつつ、

好奇心には勝てなくて振り返った。

 

すると・・・

そこには女の子がいた。

 

椅子に座っていた。

 

妙に小さな椅子だなと思ったのは、

子供用だったんだとのん気に考えていた。

 

でも焦っていたはずなのに、

その女の子から目が離せなかった。

 

5~8歳くらいだったか。

 

赤い吊り下げスカートに白いシャツ、

裸足で金髪のお下げだった。

 

俯き加減で顔が見えず、

ずっと座っていた。

 

俺は金縛りのように硬直状態になっていて、

目が離せなくなっていた。

 

数分の間そんな状態が続いていると、

女の子が急にすうっと消えた。

 

なのに俺はまだ体が動かなくて、

椅子から目が離せなかった。

 

そうしたらまたあの声が聞こえて、

声のする方に目をやった。

 

それは自分の足元で

真っ暗なはずの部屋なのに、

 

さっきの女の子の首から上だけが

床からぼわっと光りながら泣いている。

 

その顔を見ると、

 

両目がぽっかりと空洞なのに

俺と目が合っているのは確信できた。

 

血の涙のようなものを流しながら、

女の子は口を開いた。

 

「おにいちゃん、痛い、踏まないでよ」

 

その瞬間、

俺の恐怖心は爆発した。

 

大声で叫ぶと体が軽くなった。

 

ワイン倉庫の扉を叩き続けると扉が開き、

自室で布団を被って朝まで待った。

 

次の日にホテルを逃げるように辞め、

日本に帰ってきた。

 

本当は警察に届けないといけないと思うが、

 

国外で事件に巻き込まれたという経歴が

付いてしまうとやばそうだから・・・

 

ただ、今にして思えば、

 

最初にあの扉を開けて

ワイン倉庫から出ようとした時、

 

はっきりと聞こえたその短い声は、

「助けて・・・」と言っていたような気もする。

 

(終)

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