下に居るあいつらが呼ぶから
バイト先の同僚が霊感のある奴だった。
シフトが同じで仕事明けにいつも一緒に帰っていたが、あるテナントビルの前を通る度にいつも嫌がっていた。
なんでも、そのビルの前には複数の霊が佇んでいるとか。
俺は霊感なんて無いから分からないが、その同僚いわく、幽霊といっても別に透明だったり足が無かったりはないらしい。
そこにいる霊はごく普通の男女数人で、それぞれ別な方向を向いて無言で立っているとか。
ある時、同僚はそのビルの前で突然立ち止まって上をジッと見上げた。
「どうした?」と訊くと、そこにいつも居る霊がみんな上を見上げているという。
しばらく二人で上を見ていたら、屋上に人陰が見えた。
同僚が「おーい!」と声を掛けると、制服を着た学生が逃げていった。
「あれ多分、自殺するところだったんだよ」
そう同僚は言った。
「ビルの屋上なんて、カギ掛けて管理してるだろうに、なんで学生が入れるんだろうね?」と話していると、同僚は「下に居るあいつらが呼ぶから」と言って笑った。
それからしばらくして、シフトが変わったこともあって、その同僚とは一緒に帰ることもなくなった。
2年ほど経った頃、俺は既にバイトを辞めていて、久しぶりに元バイト先へ遊びに行った。
そしたら、その元同僚が「あのビルの屋上から飛び降り自殺した」と聞かされた。
今頃、あのビルの下に佇んでいるのかも知れない。
(終)