家の中に誰かがいる気がする

壁掛け時計

 

これは、知人の裕美から聞いた話。※仮名

 

裕美の夫はある時から急に、「家の中に誰かがいる気がする」と言うようになったという。

 

ちょうどその頃、裕美が玄関や窓の鍵を閉め忘れて外出したことが続いてしまった為、その当てつけだと気にしていなかったとか。

 

しかし最初はふとした時に、思い出したように「物音がする、誰かいる」と言うだけだったのが、だんだんとそれが頻繁になってきた。

 

「まただ。ガタガタいってるだろ?たぶん天井裏に誰かが隠れてるんだ」

 

夫はそう言うが裕美には聞こえず、また聞こえる時は明らかに原因は風や野良猫だった。

 

裕美としては、心霊現象よりも夫の精神状態の方が気になった。

 

何しろ、結婚する前からオカルトの類をバカにして鼻で笑っていた夫だ。

 

急に霊感に目覚めたなんて、そんなことは信じられなかった。

 

どうしたものか?と思っていたある日、友人に誘われて近所の寺に行く機会があった。

 

小さな寺だったが、時折本堂でお茶やお花の教室を開いていたそうで。

 

教室の主催は若い住職夫婦だったが、裕美が本堂でお茶を立てている間、その様子を先代坊守と思われる年配の女性がじっと見ていたという。

 

そして帰る際、その女性が裕美に声をかけてきた。

 

「ねぇ、あなた。お家で何か不思議なことが起きてない?」

 

突然そう言われ、「はい?」と裕美はポカンとしてしまった。

 

「突然ごめんなさいね。あのね、これあげるわ」

 

「はぁ?」

 

「これをね、玄関のどこかに置いてみて。目立たないところでいいけど、上の方がいいわね。あぁ、驚くとは思うけど、騙すつもりはないし、悪い話ではないわ。まぁ、お守りと思って持って帰ってちょうだい」

 

早口でそう言って、その女性は裕美に御札のようなものを握らせると、さっさと踵を返し本堂へ戻ってしまった。

 

裕美は首を傾げたが、ふと夫の言っていたことを思い出した。

 

家の中に誰かいる、というアレだ。

 

もしかして、そのことを言っているのだろうか。

 

半信半疑ではあったが、悪い人ではなさそうだし、顔見知りの寺の関係者なのだからと、裕美はその御札を持って帰った。

 

そして、玄関に飾ってある額縁の裏にそっと忍ばせたという。

 

その夜、夫は帰って来るなり裕美に言った。

 

「何かした?家の中がさっぱりしてる」

 

夫が言っていることがどういうことなのか、裕美には実感も湧かないし、正直「何が何だか…」という気持ちだったとか。

 

御札を置いたのが良かったのだろうが、何の御札なのか、そもそも家にいたというものが何なのか、なぜ夫がその存在に気づいたのか、何もかもがさっぱりわからない。

 

ただそれ以降、夫は「家に何かいる」と不安がることはなくなり、元のオカルト否定派の夫に戻ったという。

 

「何とも不思議な話だね。裕美の知らないところで何が起きていたんだろうね」

 

「本当に」

 

裕美は何とも言えない顔で頷いた後、「実は…」とますます眉をひそめた。

 

「何が何だかわからないけど、とりあえずあの御札のおかげだろうと、後日お寺にお礼に行ったの。あの坊守さんに会いに。そしたら…」

 

「そしたら?」

 

「そんな人はうちの寺にはいない、と言われて。あの時のお茶の教室の参加者も教えてもらったけど、それらしき人はいなくて…」

 

あの時に御札を渡してくれたのは誰だったのか。

 

「とにかく、何が何だか全くわからない出来事なんだよね」

 

裕美は肩をすくめて、そう締め括った。

 

(終)

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