塩をまくことになった日のこと
これは、中3の時の体験話。
その頃の俺は勉強するのが快感で、朝から晩までトランス状態で勉強ばかりしていた。
その日も朝から勉強していたが、気づけば家には誰もいなかった。
出かけたのか?と、特に気にせず勉強を続ける。
昼頃、腹が減って台所でインスタントラーメンを作りながら、ぼーっと暗記ものを思い出していると、ふと「塩まかなくちゃ」という考えが頭に浮かんだ。
何の躊躇いもなく調味料ポット小脇に窓を開けて、鷲掴みにした塩を外へ豪快にばら撒いた。
ベランダや玄関など、とにかく手当たり次第に。
気が済んだところでラーメンを食べ、また勉強を再開する。
数時間後、気づくといつの間にか母が夕飯の支度をしていて、弟と男(当時の母の彼氏)が帰って来るなり玄関で何やら話し込んでいた。
「塩!早く塩もってきて!」と、母に向かって大騒ぎしている。
今朝から二人は釣りに行っていて、どうやら釣り場でぽつぽつ会話した中年のおじさんがいたそうなのだが、帰りに寄った蕎麦屋のテレビのニュースで、そのおじさんが今日の昼頃に水死したと報道されていたという。
弟が、「連れてきちゃったかもしれないから、塩かけて!」と必死に言う。
そこまで聞いた俺は、玄関に出ていって一言。
「うるさいなー。塩なら昼間にまいたよ!」
みんなの唖然とした表情は今でも覚えているが、“もしあの時、自分が霊を見ることができる人だったら…”と、今ではほんのり怖い。
(終)