それは「あやこさんの木」と呼ばれている 2/2

校庭

前回までの話はこちら

校門の前に自転車を止めて、校門をよじ登って飛び降りた。

 

その瞬間にゾクッという悪寒が走った。

 

ただでさえ夜の学校は怖いのに、その上あやこさんの木の切り株の上に女の子が座っている。

 

どうしようか迷った。

 

一度家に帰って親と一緒に来ようか?

 

でもやはり一人で見つけたかった。

 

校門からあやこさんの木までは100メートルちょっとある。

 

ビクビクしながらあやこさんの木に近づいていった。

 

女の子は顔を伏せて切り株の上で体育座りをしている。

 

異常な光景を目の当たりにして、声をかけることが出来なかった。

 

ここまで来て引き返そうかとも思った。

 

それほど目の前の女の子が怖かった。

 

でも足が動かない。

 

1分ほど黙って女の子の前に立っていたが、意を決して「どうしたの?」と声をかけた。

 

女の子は顔を伏せたまま「・・・・・たの?」と言ったが、ボソボソと話してよく聞こえない。

 

「え?」と聞き返すと、「どうして切ったの?」と聞いてきた。

 

あやこさんの木のことかなと思ったが、僕にどうしてと言われても分からない。

 

答えられずにいると、女の子はゆっくりと顔を上げて僕を見つめた。

 

普通の女の子だ。

 

だが、女の子の顔が怒りの表情に変わっていく。

 

立ち上がって切り株から降り、近づいてきた。

 

逃げ出したかったが、やはり恐怖で足が動かない。

 

女の子は僕の目の前で止まり、「どうしてだー!!」と叫んだ。

 

次の瞬間、「ギャアアアアア!!」というあの歪んだ声が校舎の中から聞こえてきた。

 

校舎の窓は全て閉めてあったが、声が漏れて聞こえてくる。

 

あまりのことに僕は女の子を突き飛ばし、全速力で逃げた。

 

校門まで遠い。

 

振り返りたい衝動に駆られたが、絶対に振り返ってはいけない気がして、とにかく全力で走った。

 

走っている最中も、校舎の中からあの声が聞こえる。

 

校門の前にパトカーが止まっているのが見えた。

 

助かった。

 

涙が出そうなほど嬉しかった。

 

「助けて!」と夢中で叫んだ。

 

警官が「どうした?何があった?」と聞いてくるも、泣いて答えられない。

 

何人かが校庭に入っていき、女の子を抱えて出てきた。

 

パトカーの中で落ち着かせてもらって、やっと話せるようになり、ありのままを話した。

 

信じてくれたかどうかは分からないが、校庭に入った警官は校舎から聞こえてきたあの声を聞いてるはずだ。

 

あの女の子はやはり行方不明になっていた女の子だったようで、母親が泣きながら女の子を抱きしめている。

 

僕は夜も遅かったので親に連絡をして呼んでもらい、一緒に家へ帰った。

 

翌日は土曜日だったこともあり学校を休むことにしたが、「また御祓いをするから一緒にやってもらった方がいいんじゃないか」と担任に言われ、昼過ぎに学校へ行くことにした。

 

あの女の子も同じ小学校の下級生で、御祓いをしてもらうために親と一緒に学校へ来ていた。

 

少し話をしたが、僕のことを覚えていないどころか、昨日の記憶がほとんど無いらしい。

 

校長も教頭も含めた学校の先生がほぼ全員一緒に御祓いを受けた。

 

なんだか葉っぱのたくさん付いた樹の枝みたいなもので頭をバサバサやられたりしたのを覚えている。

 

御祓いが効いたのか、それからは何も起こらなくなった。

 

先生達にあやこさんの木について聞いてみたが、誰も何も知らないという。

 

昔からある木だから何かが宿っていたのかも知れない、と。

 

今でもあの小学校の前を通る時はゾクッとする。

 

見ない方が良いと分かってはいるが、あの切り株を見てしまう。

 

もう何の変哲もないただの切り株になっていることを願う。

 

(終)

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