深夜のコンビニに現れる女の幽霊
学生時代、コンビニの深夜バイトをやっていたのだが、そこで実際に体験した話。
深夜2時頃、突然停電が起きた。
外に出てみたが、どうも停電しているのはうちだけだ。
(アイスとかどうするんだ?!)と思い、休憩中の先輩を呼びに行こうとしたら、バックヤードのドア前に女が立っていた。
確か客は居なかったはずだが・・・。
この女は一体・・・
「すいませ~ん。ちょっと電気消えちゃったみたいで。今なんとかしますので、ちょっとお待ち下さい」と謝ったら、「×××××・・・」。
女は何か言っている。
聞き返すと、「重い、重いんだよ!」と、いきなり怒鳴られた。
そのまま女は凄い早口で捲し立てた。
「いつもいつもどいつもこいつも重くて重くてたまらない。お前らは何も考えてない。みんな迷惑している!」
こんな感じで始まり、全部は聞き取れなかったが、文句をえらい早口でベラベラ言われた。
俺は、(ヤベー客が来ちまったな。とりあえず謝ろう)と、ひたすら「すいません」を繰り返した。
だが、お前なんかに言っても仕方ない、みたいなことを言われ、女はレジ裏に早足で歩き、スッとしゃがんだ。
俺は慌てて追いかけたが、女はすでに居なくなっていた。
呆然と立ち尽くしていると、電気が点いた。
その時に初めて、(あれは生きてるものじゃないのかも・・・)と思い、震えがきた。
寝ていた先輩を叩き起こして報告すると、「何お前、初めて?俺なんか夜勤の度によく見てるよ。うるせぇんだよな、あいつ。なんもしてこないからほっとけよ」と、素っ気ない返事だった。
翌朝、店長に報告すると、店長もすでに知っていた。
どうやら開店当初から現れているらしい。
店長も慣れた様子で、「気にするな」と言う。
しかし、新人の女の子がそれを見て錯乱し、110番やら119番を掛けまくって近所でちょっとした騒ぎになったのをきっかけに、店長も重い腰を上げた。
どこから連れて来たのか分からないが、お祓いの専門家がやって来て、儀式を行った。
俺は大学を休んで見物に行ったが、なんだか物々しい祭壇みたいなものを構えて、呪文のようなものを唱えていた。
その専門家が言うには、ここは昔に小さな集落があり、合戦の際に略奪に遭い、多くの命が無惨な目に遭ったとか。
御札や熊手みたいなものを渡され、目立たないところに置けという指示を受けた。
店長は高い金を払って「みんなこれで安心」みたいな安堵感だったが、俺には解せない。
俺が見たのはキャミソールを着た今風の女で、とても昔の人には見えなかった。
みんなはそれから「お化けは出なくなった」と喜んでいたが、俺は未だにキャミソールの女を見る。
そして、この事に気付くまでしばらくかかったが、実は俺が見ている女とみんなが見ていた女は違った。
それに気付いた時、洒落にならないくらい怖かった。
もちろんバイトはすぐ辞めた。
それから女を見ることは格段に減ったが、今でもたまに見る。
夜に自転車でコンビニの前を通った時など、ガラス越しだが店内に居るのを見る。
一度立ち止まってよく見てみたが、ブツブツと口を動かしていたり、何か叫んでいるようだったりと、相変わらず文句を言っているのだろうか。
これは俺の推測だが、女は俺に何かを訴えようとしているのではなく、たまたまそこに居た俺が気付いてしまっただけなのではないかと。
“幽霊を見る”というのはこんな感じなのか、と思った。
交通事故みたいなもんだ。
女は、突然現れて突然消えるという事を除けば、全く普通の人間のようだった。
その気になって触ろうと思えば触れるのではないかというくらいに。
つまり、普段人込みの中で見過ごしている人達の中にも、この世のものではないものがいるのではないか、と思う。
それに気付くには、キッカケがいるのではないか。
キッカケが無いまま見過ごしている。
あるいは、見えているのに気付いていない。
そんな連中がいるのではないかと思うと、人込みが不気味なものに見えてくる。
(終)