深夜3時の大雨の中で牛丼屋に来た客
この話は、会社を辞めて転職活動中にやっていたバイト先での実体験。
1年半くらい前、俺は牛丼チェーンのS屋で深夜バイトをしていた。
そこはかなり暇な店だったので、夜22時から朝9時まで俺一人でまわしていた。
その日は大雨で、ただでさえ暇な店がより暇になっていた。
深夜1時に配送でやって来た食材を冷蔵庫に移して、その後に厨房の掃除もやって時計を見ると深夜3時だった。
この間の2時間で、お客さんは0人・・・。(笑)
とは言っても、雨が降っていなくても1時間くらい誰も来ないことはよくある。
今は戦争で大変なんだから
今日は楽な日に入って良かったなぁと思っていると、「テュルルルルル~ン♪」と入店音が鳴った。
2時間ぶりに客が来ちまったか・・・と思って厨房からカウンターに行くと、カウンター席にはズブ濡れで貧乏臭い70歳くらいのお婆さんが座っていた。
外は大雨なのに傘も持っていないし、よく見ると靴も履いていない。
俺は「いらっしゃいませ~」と言って、お婆さんの前に水を置いた。
しかし、お婆さんは何も言わずに席を立ち、持ち帰りコーナーへ歩いていく。
気味が悪いと思いつつ、俺も持ち帰りコーナーのレジ前へ移動する。
俺は改めて、「いらっしゃいませ。ご注文は何にしますか?」と聞くと、お婆さんは「あなた、こんな若いのに何で戦争行ってないの?」と言う。
俺は「えっ?」と混乱しているが、お婆さんは構わず「今は戦争で大変なんだから」と、ずっと戦争の話をしてくる。
その後も、俺が何を言っても注文も言わないし、戦争の話もやめない為、ボケていると判断して警察に通報した。
警察が到着するまでの間も、一人で戦争の話を続けている。
それから10分程して、自転車で来た警官とパトカーで来た二人の警官が同時に店に入ってきた。
案の定、警官がお婆さんに話しかけても住所を言わないし、何を言ってるのか分からない。
困り果てた警官は、「お婆ちゃん、ここは飲食店だから注文しないといちゃいけないんだよ」と説明するや、少し強引にお婆さんをパトカーに乗せて連れて行った。
同時に、自転車で来た警官も帰った。
お婆さんが居なくなって15分程した後、俺はカウンターに置いてある醤油を交換をしようと思ってカウンターに出て、店の入り口の方を向いた。
すると、店のガラス越しに誰かが立っているのが見えた。
後ろ姿だったが、服装も同じだし、靴も履いていない・・・。
もちろん傘も持っていなかったから、すぐにさっきのお婆さんだと分かった。
お婆さんは、お店の外で雨を凌ぐようにボーっと店とは反対方向の道路を見て立っている。
俺は、このままではまた店に入って来る可能性もあるし、ボケていて住所も言えない老人を大雨の中に置いて行った警官の対応にも腹が立ち、すぐに警察へ電話した。
「さっき電話したS家●●店の者ですけど、お婆さんがまた店に戻って来ちゃってるんですけど」
電話に出た担当者は、「分かりました。10分くらいで警察の者が行くと思うので少々お待ちください」と言って電話を切った。
5分後、店の電話が鳴った。
電話に出ると、先ほど店に来た警官からだった。
「さっきお伺いした者ですが、あのお婆さんならまだ住所が分からないので今もパトカーに乗ってますよ?」と言う。
俺は、「ふへぇえ?(急に怖くなって裏声になった)そんなはずありません。ちょっと確認して来るので待っててください」と言うや、ゾッとしながらカウンターへ行って店の外を見た。
すると、誰もいない。
信じられないので店外に出て確認するも、大雨で歩いている人すらいない。
俺はもう半泣き状態だった。
電話の受話器を再び手に持ち、「すいません・・・。勘違いだったみたいです」と震えた声で言った。
警官は、「気味悪い人だから精神的に怖くなって幻を見ちゃったのかもね」と言って電話を切った。
怖くなってしまった俺はその後、一生懸命に店内の掃除をして時間をやり過ごした。
ちなみに、深夜1時から警官との電話が終わった深夜4時くらいまでの3時間、客は一人も来なかった。
さすがに台風の時でも3時間も誰も来ないなんてことはないので、謎のお婆さんが来た体験と重なって余計に気味が悪かったのを今も覚えている。
(終)