ギターを抱えてベンチに座っている老人
これは、俺が無職だった頃の話だ。
公園を散歩していたら、『ギターを大事そうに抱えてベンチに座っている男性の老人』を見かけた。
暇だから声をかけてみたところ、その老人はこんなことを話してくれた。
定年退職直後に事故で右足が利かなくなり、そのせいで奥さんと熟年離婚してしまった。
退職金もほとんどが慰謝料(事故の?)として持っていかれ、わずかに残ったお金をはたいて昔に憧れていたギターを1本買った。
しかし今はもう弾き方も忘れ、ただ抱えているしか出来ないが、それでも今はこうしていることが幸せなのだという。
その後、俺は就職先も決まって忙しくなった為、それからはしばらく公園に行かなかった。
だが、ある時ふと老人のことを思い出して、その公園を訪れた。
しかし、いつもいたベンチにその老人は居なかった。
通りかかった人に聞いたところ、ある冬の日の朝、ベンチに腰掛けたままギターを愛おしそうに抱えて死んでいたそうだ。
家族のために頑張ってきたはずなのに、孤独な最期を迎えた老人が悲しすぎると思ったと同時に、もし無職のままだったら俺も将来そうなってしまうのかな、としじじみ思った。
(終)