桃太郎との奇妙な出会い
夜中、急にビールが飲みたくなる時というのは、大学生になると一度は必ずやってくるものだと俺は思っている。
これは先日、もう日が変わって夜の1時くらいになった時の話。
テレビでアサヒのスーパードライのCMを見たせいか、急にビールが飲みたくなって冷蔵庫を開けた。
ちょうどビールを切らしていたみたいで、中はケチャップと卵だけ。
仕方なく、近所のコンビニまで徒歩で向かうことにした。
ものの数分、あっさりとコンビニに到着し、目当てのビールと少しのツマミを買って帰る。
帰り道には遊具が2つばかりある小さな公園があるのだが、そこを通る時にオッサンの渋い歌声が耳に入った。
「も~もたろさん、ももたろさ~ん」
まさかの桃太郎。
「ふっふふっふふっふふ~、ふっふふっふふ~♪」
しかも、うろ覚え。
酔っぱらいが公園で寝ているのかと無視して家に帰ると、すぐさまビールの缶を開けて一息。
ソファーでゆっくりとしていると、帰り道での歌声を思い出して、ほろ酔いで気分も良いせいか桃太郎を口ずさむ。
といっても、恥ずかしくて小声で。
「も~もたろさん、ももたろさ~ん、おっこしにつけた~き~びだんご~、ひっとつ~わたしにく~ださいな~、・・・・・・・・」
なんだかんだで俺もこの先を覚えていないやと思って、ソファーに深く腰掛けた途端、耳元で「おぉ、そうだそうだ、思い出した」と聞き覚えのある渋い声がした。
びっくりして辺りを見回すも、当然のように俺一人。
気味が悪くなった俺は、その日はユーチューブで桃太郎のフルバージョンを聴いて布団に入った。
あの声の主に聴かせたら成仏するかな、なんてアホなことを考えて。
運良く、その後は何ともない。
(終)