ローカルルールにはちゃんと理由がある
これは20数年前に実際に起きた、目の前が海の漁師町での話。
ちなみに、海は太平洋側で俺の地元だ。
ここ数年は少なくなったが、幼少の頃から海女さんの真似事をしながらアワビやサザエなどを取ったり、釣りをするのが子供の遊びだった。
朝に堤防まで行くと、まず『旗』をチェックする。
なぜなら、赤旗が立っていると漁は禁止だからだ。
もちろん放送も入るので、誰もが暗黙の了解で守り、事故も無く安全に過ごしていた。
海底から何本も生えていた手
大型連休になると、まれに他所から海に泳ぎに来る人がいる。
大体は家族連れ。
しかし、海水浴場ではないので何も無いため、多くても3~4組の家族。
その日は『赤旗』が出ていたが、他所から来れば知るはずもない目印だ。
そんな中、ある家族連れの兄弟(小学生の男の子2人)が、陸から25メートルほどの距離のテトラポット付近を浮き輪で泳いでいた。
しかし、太平洋側の海は基本的に波が高く、赤旗が出ている時は今後さらに高くなっていく。
波は何回かに一度大きなものが来るのだが、弟の方がそれに飲まれてしまい、テトラポットに足が挟まり、浮き輪は風で飛ばされてしまった。
顔がかろうじて海面から出るくらいで、兄は自分の浮き輪に弟を捕まらせて何とか必死に励ました。
だが、弟は海水を飲んでしまい、父親が助けに来る頃には意識をなくし、そのまま亡くなってしまった。
陸に上がってから、兄は両親に「白い手が弟の足を掴んでた!」と何回も訴えていた。
起こった事を要約すれば、波に足をさらわれて運悪くテトラポットに挟まってしまった、となる。
実は俺も、白い手は素潜りをしている時に見たことがある。
一瞬ではなく、友達と確認しながら何回も皆が見ている。
ワカメや鱧(ハモ)と並んで、海底から何本も生えていたのだ。
今思えば、海に行く時は海を祀る神様の所に寄っていた為なのか、白い手を見かけても害はなかったので『危険なもの』という認識はなかった。
改めて思い返すと、こうしたローカルルールというのも理由があっての事だと思う。
あなたも、もし地方へ出掛けた時に地元の人と話す機会があれば、ローカルルールを聞いておいて、それを出来るだけ守る方が賢明だと思う。
ちなみに、子供の亡くなった場所の堤防沿いには、今も地元の人達によって献花されている。
(終)