あの幽霊、俺に惚れてたのかなぁ

台所

 

12年前、大学進学で一人暮らしを始めたが、その時に始めたバイトの職場に自称霊感があるという先輩(30歳)がいた。

 

俺は霊感が無いから幽霊の存在を信じていなかったが、オカルトは好きだったのでその先輩と仲良くなり、バイト帰りに家へ遊びに行ったりしていた。

 

そんなある日のバイト帰り、俺の部屋に先輩が遊びに来る事になった。

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お前には何もしてこない。むしろ・・・

先輩は部屋に入った途端、「あー、いるわ。いるいる。台所のトコに立ってる。髪の長い女の人。こっち見てる」と言い出した。

 

続けて、「まぁでも、悪意があるようには見えないから大丈夫だろ」と言って俺を宥めてくれようとするが、幽霊を信じていない俺は「マジっすか!?」と言いながら、心の中では『はいはい。またかよ』と思っていた。

 

その日はしばらくして先輩は帰り、何事も無く終わった。

 

別に確証が持てる話ではないし、バイト先の先輩の話だから学校の友人達にはこの事は話していなかった。

 

それから2週間くらいが経ち、夜中に一人で部屋でゴロゴロしていたら、大学の友人が女友達を連れて遊びにやって来た。

 

その女友達は俺と初対面だったのだが、部屋に入って来るなり何故かガタガタと震え出した。

 

それを見た俺は、『何?俺が怖いの?キモイ?』と思って落ち込んでいたが、友人が「どうしたの?大丈夫?」と聞くと、女友達は「う、うん・・・」と言いながら震えている。

 

しばらく3人で喋っていたが、その間も女友達はずっとガタガタと震えている。

 

しまいには、汗もダラダラとかき始めた。

 

すると突然、女友達が「やっぱりダメ、帰りたい」と言い出して、結局10分くらいの滞在でお帰りした。

 

その後、女友達を家に送り終わったであろう友人から電話がかかってきた。

 

友人「さっきはゴメンゴメン。すぐ帰っちゃって」

 

「あー、いいよいいよ。俺嫌われた?」

 

友人「いやいや。なんかさー、あの子は霊感があるらしくて、台所のところに髪の長い女の人が居て、ずっとこっち見てるって言うんだよ」

 

「え!?」

 

友人「凄い睨んでるから怖くて、1秒でも早く部屋から出たかったんだって」

 

「いやいや、ちょっとまてよ。むしろそんな状況で俺を放り出して一人にすんなよ」

 

友人「だって怖えーじゃん(笑)」

 

・・・一瞬、友達をやめようかと思った。

 

ちなみに、先輩と女友達に接点は一切ない。

 

年も離れているし、大学も出身地も違う。

 

そんな二人がまったく同じものを見たって・・・。

 

さすがに怖くなった俺は、すぐに家を出てその日はネカフェに泊まった。

 

それ以降、いくつか不思議な事があった。

 

ラップ音や金縛りを始め、俺が何日か実家に帰省していた時に別の友人がこの部屋を使っていたのだが、買物から帰って来てカギを開けようとしたら部屋の中から声が聞こえたらしい。

 

俺が帰って来たのかと思って部屋に入るが、真っ暗で誰も居なかったとか。

 

でも、不思議と俺自身への被害は少なかったし、全然怖くはなかった。

 

もちろん何も見えないし。

 

それら一連の事をバイト先の先輩に話してみたら、「あの幽霊は悪意がないから、お前には何もしてこない。むしろ一緒に居たいと思ってる感じだった。たぶんお前は、あの部屋から引っ越したいとは思わない」と言われた。

 

先輩の言う通り、結局は引っ越すタイミングはいくつかあったが、仕事で転勤になるまでの10年間はそこに住んでいた。

 

もしかしてあの幽霊、俺に惚れてたのかなぁ。

 

(終)

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