リゾートバイト(本編)1/14

これは俺が大学3年の時の話。

 

夏休みも間近に迫り、大学の仲間5人で

海に旅行に行こうって計画を立てたんだ。

 

計画段階で仲間の一人が、

どうせなら海でバイトしないか

って言い出して。

 

俺も夏休みの予定なんて

特になかったから、

二つ返事でOKを出した。

 

そのうち2人は、

なにやらゼミの合宿があるらしいとかで、

バイトはNGってことに。

 

結局、5人のうち3人が

海でバイトすることにして、

残り2人は旅行として、

俺達の働く旅館に泊まりに来れば

いいべって話になった。

 

それで、まずは肝心の働き場所を

見つけるべく、3人で手分けして

色々探してまわることにした。

 

ネットで探してたんだが、

結構募集してるもんで、

友達同士歓迎っていう文字も多かった。

 

俺達はそこから、

ひとつの旅館を選択した。

 

もちろんナンパの名所と言われる海の近く。

そこはぬかりない。

 

電話でバイトの申し込みをした訳だが、

それはもうトントン拍子に話は進み、

途中で友達と2日間くらい合流したい

という申し出も、

『その分いっぱい働いてもらうわよ』

という女将さんの一言で、

難なく決まった。

 

計画も大筋決まり、

テンションの上がった俺達は、

そのまま何故か健康ランドへ直行し、

その後、友達の住むアパートに集まって、

風呂上りのツルピカンの顔で、

ナンパ成功時の行動などを

綿密に打ち合わせた。

 

そして仲間うち3人(俺含む)が、

旅館へと旅立つ日がやってきた。

 

初めてのリゾートバイトな訳で、

緊張と期待で結構わくわくしてる

僕的な俺がいた。

 

旅館に到着すると、2階建ての

結構広めの民宿だった。

 

一言で言うなら、

田舎のばーちゃんち。

 

『○○旅館』とは書いてあるけど、

まあ民宿だった。

 

○○荘の方がしっくりくる感じ。

 

入り口から声をかけると、

中から若い女の子が

笑顔で出迎えてくれた。

 

ここでグッとテンションが上がる、俺。

 

旅館の中は客室が4部屋、

みんなで食事する広間が1つ、

従業員住み込み用の部屋が2つで、

計7つの部屋があると説明され、

俺達は初め、広間に通された。

 

しばらく待っていると、若い女の子が

麦茶を持ってきてくれた。

 

名前は「美咲ちゃん」といって、

この近くで育った女の子だった。

 

それと一緒に入ってきたのが、

女将さんの「真樹子さん」。

 

恰幅が良くて笑い声の大きな、

すげーいい人。

 

もう少し若かったら、俺惚れてた。

 

あと旦那さんもいて、計6人で、

この民宿を切り盛りしていくことになった。

 

ある程度の自己紹介とかが済んで、

女将さんが言った。

 

「客室は、そこの右の廊下を

突き当たって左右にあるからね。

そんで、あんたたちの寝泊りする部屋は、

左の廊下の突き当たり。

あとは荷物置いてから説明するから、

ひとまずゆっくりしてきな」

 

ふと友達が疑問に思ったことを聞いた。

(友達をAとBってことにする)

 

A「2階じゃないんですか?客室って」

 

すると女将さんは、笑顔で答えた。 

「違うよ。2階は今使ってないんだよ」

 

俺達は、今はまだ

シーズンじゃないからかな?って思って、

特に気に留めてなかった。

 

そのうち開放するんだろ、

くらいに思って。

 

部屋に着いて荷物を下ろして、

部屋から見える景色とか見てると、

本当に気が安らいだ。

 

これからバイトで大変かもしれないけど、

こんないい場所でひと夏過ごせるのなら

全然いいと思った。

 

ひと夏のあばんちゅーるも期待してたしね。

そうして俺達のバイト生活が始まった。

 

大変なことも大量にあったが、

みんな良い人だから全然苦にならなかった。

 

やっぱ、職場は人間関係ですな。

1週間が過ぎた頃、

友達の一人がこう言った。

 

A「なあ、俺達良いバイト先見つけたよな」

 

B「ああ、しかもたんまり金入るしな」

 

友達二人が話す中、俺も

「そーだな。でも

もーすぐシーズンだろ?忙しくなるな」

 

A「そういえば、シーズンになったら

2階は開放すんのか?」

 

B「しねーだろ。2階って女将さんたち

住んでるんじゃないのか?」

 

俺とAは「え、そうなの?」

と声を揃える。

 

B「いやわかんねーけど。

でも最近女将さん、よく2階に

飯持ってってないか?」

 

A「知らん」

 

「知らん」

 

Bは夕時、玄関前の掃き掃除を

担当しているため、

2階に上がる女将さんの姿を

よく見かけるのだという。

 

女将さんはお盆に飯を乗っけて、

そそくさと2階へ続く階段に

消えていくらしい。

 

その話を聞いた俺達は、

「へ~」「ふ~ん」みたいな感じで、

別になんの違和感も抱いていなかった。

 

それから何日かしたある日、いつも通り

廊下の掃除をしていた俺なんだが、

見ちゃったんだ。

 

客室から、こっそり出てくる女将さんを。

 

女将さんは基本、

部屋の掃除とかしないんだ。

 

そうゆうのするのは全部、美咲ちゃん。

だから余計に怪しかったのかもしれないけど。

 

始めは目を疑ったんだが

やっぱり女将さんで、

その日一日悶々したものを

抱えていた俺は、

結局黙っていられなくて

友達に話したんだ。

 

すると、Aが言ったんだよ、 

「それ、俺も見たことあるわ」

 

「おい、マジか。

なんで言わなかったんだよ」

 

B「それ、俺ないわ」

 

「じゃー黙れ」

 

A「だって、なんか用あるんだと思ってたし、

それに、疑ってギクシャクすんの嫌じゃん」

 

「確かに」

 

俺達はそのとき、残り1ヵ月近く

バイト期間があった訳で。

 

3人で、見てみぬふりを

するか否かで話し合ったんだ。

 

(続く)リゾートバイト(本編)2/14へ

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