リゾートバイト(その後)5/6
あなた達を、あのおんどうに残したこと、
本当に申し訳なく思います。
しかし私は、真樹子さんとあなた達の
両方を救わなければならなかった。
あなた達がここにいる間、私達は
真樹子さんを本堂で縛り、
先代が行ったように経を読み上げました。
あのモノがおんどうへ行くのか、
本堂へ来るのか、わからなかったのです。
つまり、俺達に憑いてきてはいるが、
これまでの事例からいくと、
母親の女将さんにも危険が及ぶと、
坊さんはそう読んでいたってことだ。
俺は、別に坊さんが
謝ることじゃないと思った。
それに、この人は命の恩人だろ?
と思ってBを見ると、肩を震わせながら
坊さんを睨みつけて言ったんだ。
B「納得いかない。自分の息子が帰ってくりゃ
人の命なんてどーでもいいのか?」
坊「・・・」
B「全部吐かせろよ!
なんでこんな目に遭わせたのか。
それが出来ないなら、
俺が直接会って聞いてやる。
旦那さんだって知ってたんだろ?
それなのに何で言わなかったんだ?」
坊「○○さんは、知らなかったのです」
B「嘘つくな。
知ってるようなこと言ってたんだ」
坊「この話は、この土地には
深く根付いています。
○○さんが知っていたのは、
伝承としてでしょう」
坊さんが嘘を吐いているようには
見えなかった。
だが、Bの興奮は
収まりきらなかったんだ。
B「ふざけんじゃねーぞ。早く会わせろ。
あいつらに会わせろよ!」
俺達は、Bを取り押さえるのに
必死だった。
坊さんは微動だにせず、
Bの怒鳴り声を静かに聞いていた。
そして、
坊「この話をすると決めた時点で、
あなた達には全てをお見せしよう
と思っておりました。
真樹子さんのいる場所へ案内します」
と言って立ち上がったんだ。
坊さんの後をついて、
しばらく歩いた。
本堂の中にいるかと思っていたんだが、
渡り廊下みたいなのを渡って、
離れのような場所に通された。
近づくにつれて、なにやら呻き声と、
何人かの経を唱える声が聞こえてきた。
そしてその声と一緒に、
バタンッバタンという音が聞こえた。
かなりでかかった。
離れの扉の前に立つと、その音は
もう、すぐそこで鳴っていて、
中で何が起きているのかと、
俺は内心びくびくしていた。
そして坊さんが離れの扉を開けると、
そこには女将さん一人と、
それを取り囲む坊さん達がいた。
俺達は全員、
言葉を発することが出来なかった。
女将さんはそこにいたというか・・・
なんか跳ねてた。エビみたいに。
(うまく説明出来ないんだが)
寝た状態の畳の上で、
はんぺんみたいに体をしならせて、
ビタンビタンと跳ねていたんだ。
人間のあんな動きを、俺は初めてみた。
そして時折、苦しそうに
呻き声を上げるんだ。
俺は怖くて、
女将さんの顔が見れなかった。
正直、前の晩とは違う、
でもそれと同等の恐怖を感じた。
呆然とする俺達に、坊さんは言った。
坊「この状態が、今朝から
収まらないのです」
するとAが耐え切れなくなり、
「俺、ここにいるのキツイです」と言ったので、
一旦外に出ることになった。
音を聞くことさえ辛かった。
つい昨日の朝に見た女将さんの姿とは、
まるで別人の様になっていた。
そこから少し離れたところで、
俺達は坊さんに尋ねた。
憑き物の祓いは、
成功したのではないのかと。
坊「確かに、あなた達を親と思い
憑いてきたモノは、
祓うことが出来たのだと思います。
現に、あなた達がいて、
ここに臍の緒がある。しかし・・・」
すると、急にBが言ったんだ。
B「そうか・・・俺が見たのは、
1つじゃなかったんだ」
初めは何のことを言ってるのか
わからなかったんだが、
そのうちに俺もピンときた。
Bはあの時、2階の階段で、
複数の影を見たと言っていなかったか?
坊「1つ、ではないのですか?」
坊さんは驚いたように聞き返し、
Bがそうだと答えるのを見ると、
また少し黙った。
そして暫く考え込んでいたかと思うと、
急に何かを思い出したような顔をして、
俺達に言ったんだ。
坊「あなた達は鳥居の家に行ってください。
そしてあの部屋を一歩も出ないでください。
後で人を行かせます」
ポカンとする俺達を置いて、
坊さんはそのまま女将さんのいる
離れの方に走って行った。
俺達は急に置いてけぼりを食らい、
暫く無言で突っ立っていた。
すると離れの方から、
複数の坊さんが大きな布に包まった物体を
運び出しているのが見えた。
その布の中身がうねうねと動いて、
時折痙攣しているように見えた。
あの中にいるのは女将さんだと、
全員が思った。
そのまま、おんどうの方に運ばれていく様を、
俺達は呆然と見ていたんだ。
ふと、お互い顔を見合わせると、
途端に怖くなり、俺たちは早足で家に向かった。
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