リゾートバイト(その後)4/6

ポカンとしていると、

坊さんはまた話し始めた。

 

住職達がおんどうを開け中を確認すると、

疲れ果ててぐったりした母親がいたそうです。

 

子を求めて、一晩中

叫んでいたのでしょう。

 

すぐさま母親を外に運びだし

手当てをしましたが、

目を覚ました時には、

母親は完全に正気を失っておりました。

 

二度も子を失った悲しみからなのか、

はたまた何か禍々しいモノの所為なのか、

それもわかりかねますが。

 

そして村の者が捜索していた

もう一人の母親ですが、

一晩経を読み上げ、疲れ果てた住職達の元に、

発見の知らせが届いたそうです。

 

近海の岸辺に、

遺体となって打ち上げられていたと。

 

母親は、体中を何かに食い破られており、

それでいて、顔はとても

幸せそうだったとあります。

 

何が起きたのかはわかりませんが、

住職の手記には、こうありました。

 

『子に食われる母親の最後は、

完全な笑顔だった』と。

 

信じられないような話なんだが、

俺達は坊さんの話す言葉一つ一つを

そのまま飲み込んだ。

 

遺体となって見つかった母親の家は、

村の者達による話し合いで

取り壊されることとなり、その際に、

家の中から母親の書いたものらしい

メモが見つかったそうです。

 

そう言って坊さんは、そのメモの内容を

俺達に説明してくれた。

 

簡単に言うと、儀式を始めてからの

我が子を記録した、

成長記録のようなものだったそうだ。

 

どんな風に書かれていたのかは

憶測でしかないんだが、

内容は覚えているので以下に書く。

(わかりづらいかも)

 

○月?日 堂の作成を開始する

×月?日 変化なし

・・・

△月?日 △△(子の名前)が帰ってくる
△月?日 移動が困難な状態
△月?日 手足が生える
△月?日 はいはいを始める
△月?日 四つ足で動き回る
△月?日 言葉を発する
△月?日 立つ

 

この成長記録に、母親の心情が

ビッシリと書き連ねてあったらしい。

 

ちなみに、もう一人の母親は、

屋根裏に堂を作っていたらしく、

父親はその存在に、

全く気づいていなかったのだそうだ。

 

私も、全てを理解しているとは

言えませんが、

この母親の成長記録と、

住職の手記を見比べると、

そのモノは、

自分の成長した過程を遡るようにして、

退化していったと考えられませんか?

 

確かにその通りだと思った。

 

そして坊さんは、それ以上の言及を

避けるように話を続けた。

 

これ以降、手記には非常に稀ですが、

同じような事象の記述が見られます。

 

だがその全てに、母親達が

いつどのようにしてこの儀を知るのかが、

明記されていないのです。

 

それは全ての母親が命を落とす、若しくは、

話すこともままならない状態に

なってしまったことを意味しているのです。

 

坊さんは、早期に発見出来ないことを

悔やんでいると言った。

 

今回の現象は初めてのことで、

私自身も、とても戸惑っているのです。

 

なぜ母親ではないあなたが、

そのモノを見つけてしまったのか。

 

子の成長は母親にしかわからず、

共に生活する者にも、

それを確認することは出来ないはずなのです。

 

そんなデタラメな話ありなのか?

と思った。

 

そしてBが、話の核心を知ろうと

恐る恐る質問した。

 

B「あの、母親って、・・・

もしかして女将さんなんですか?」

 

坊さんは少し黙り、答えた。

 

その通りです。

 

真樹子さんは、

この村出身の者ではありません。

 

○○さん(旦那さんの名前)に嫁ぎ、

この村にやって来ました。

 

息子を一人授かり、

非常に仲の良い家族でした。

 

そう言って話してくれた坊さんの話の内容は、

大方予想がついていたものだった。

 

女将さんの一人息子は、数年前のある日、

海で行方不明になったそうだ。

 

大規模な捜索もされたが、結局

行方はわからなかったらしい。

 

悲しみに暮れた女将さんは、

周囲から慰めを受け、少しずつだが

元気を取り戻していったそうだ。

 

旅館もそれなりに繁盛し、

周囲も事件のことを忘れかけた頃、

急に旅館の2階部分を

閉鎖することになったんだって。

 

周りは不振に思ったが、

そこまで首を突っ込むことでもないと、

別段気にすることはなかったそうだ。

 

そして、この結果だ。

 

女将さんは、

どこから情報を得たのか不明だが、

あの2階へ続く階段に堂を作り上げ、

そこで儀式を行っていた。

 

そして、その産物が俺達に憑いてきた

という訳だが、ここがこれまでの事例と

違うのだと、坊さんは言った。

 

本来、儀式を行った女将さんに憑くはずの子が、

第三者の俺達に憑いたんだ。

 

考えられる違いは、女将さんは息子に

臍の緒を持たせていなかったということ。

 

そこの村の人達は、昔からの風習で

未だに続けている人もいるらしいが、

女将さんはその風習すら知らなかった。

 

これは、旦那さんが証言していたらしい。

 

そして妙な話だが、

旅館の2階を閉鎖したというのに、

バイトを3人も雇った。

 

旦那さんも、初めは反対したそうだが、

女将さんに「息子が恋しい。

同年代くらいの子達がいれば、

息子が帰って来たように思える」

と泣きつかれ、

渋々承知したそうなんだ。

 

これは坊さんの憶測なんだが、

女将さんは始めから、帰って来た息子が

俺達を親として憑いていくことを

知っていたんではないか、

ということだった。

 

結局、これらのことを俺達に話した後、

坊さんはこう言った。

 

(続く)リゾートバイト(その後)5/6へ

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