リゾートバイト(本編)10/14
そうして坊さんに連れられて俺達は、
その家を出てすぐ隣の鳥居をくぐり、
石段を登った。
旦那さんは家を出るまで一緒だったが、
おっさんたちと何やら話をした後、
坊さんに頭を下げて行ってしまった。
知ってる人がいなくなって
一気に心細くなった俺達は、
3人で寄り添うように歩いた。
特にBは目を左右に動かしながら
背中を丸めて歩いていて、
明らかに憔悴しきっていた。
だから俺達は、出来る限りBを真ん中にして、
二人で守るように歩いた。
石段を上り終わる頃、
大きな寺が見えてきた。
だが、坊さんはそこには向かわず、
俺達を連れて寺を右に回り奥へと進んだ。
そこにはもう一つ鳥居があり、
更に石段が続いていた。
鳥居をくぐる前に、坊さんがBに聞いた。
坊「Bくん、今はどんな感じですか?」
B「二本足で立っています。ずっと
こっちを見ながら、付いて来てます」
坊「そうか、もう立ちましたか。
よっぽどBくんに見つけてもらえたのが
嬉しかったんですね。
ではもう時間がない。
急がなくてはなりませんね」
そして石段を上り終えると、
さっきの寺とは比べ物にならないくらい
小さな小屋がそこにあり、
坊さんはその小屋の裏へ回ると、
俺達を呼んだ。
俺達も裏へ回ると坊さんは、
ここに一晩入り、
憑きモノを祓うのだと言った。
そして、中には明りが一切ないこと、
夜が明けるまでは言葉を発しては
ならないことを伝えてきた。
坊「もちろん、携帯電話も駄目です。
明りを発するものは全て。
食ったり寝たりすることもなりません」
どうしても用を足したくなった場合は、
この袋を使用するようにと、
変な布の袋を渡された。
俺は目を疑った。
布って・・・
だが坊さん曰く、中から液体が
漏れないようになっているらしい。
信じ難かったが、そこに食いついても
しょうがないので、大人しくしといた。
その後、俺達に竹の筒みたいなものに
入った水を一口ずつ飲ませ、
自分も口に含むと俺達に吹きかけてきた。
そして、小さな小屋の中に
入るように言った。
俺達は順番に入ろうとしたんだが、
Bが入る瞬間、口元を押さえて
外に飛び出して吐いたんだ。
突然のことで驚いた俺達だったが、
坊さんが慌てた様子で聞いてきた。
坊「あなたたち、堂に行ったのは
今日ではないですよね?」
俺「え?昨日ですけど」
坊「おかしい、一時的ではあるが
身を清めたはずなのに、
おんどうに入れないとは」
言ってる意味がよくわからなかった。
すると坊さんは、
Bのヒップバッグに目をつけ、
坊「こちらに滞在する間、
誰かから何かを受け取りましたか?」
と聞いてきた。
俺は特に思い浮かばず、
だがAが言ったんだ。
A「今日、給料貰いましたけど」
当たり前すぎて忘れてた。
そういえば、給料も貰いものだなって
妙に感心したりして。
俺「あ、あと巾着袋も」
A「おにぎりも。貰いものに入るなら」
給料を貰ったときに、女将さんに貰った
小さな袋を思い出した。
そして美咲ちゃんには、
朝おにぎりを作って貰ったんだった。
坊さんはそれを聞くと、
Bに話しかけた。
坊「Bくん、それのどれか一つを
今、持っていますか?」
B「おにぎりはデカイ鞄の方に
入れてありますけど、
給料と袋は今持ってます」
Bはそう言って、バッグから
その二つを取り出した。
坊さんは、まず巾着袋を開けた。
すると、「これは・・」と言って、
俺達に見えるように袋の口を広げた。
中を覗き込んで俺達は息を呑んだ。
そこには、大量の爪の欠片が
詰まっていたんだ。
俺の足に張り付いていたものと
一緒だった。
見覚えのある、
赤と黒ずんだものだった。
Bは、その場ですぐまた吐いた。
俺もそれにつられて吐いた。
周辺が汚物の匂いでいっぱいになり、
坊さんも顔を歪めていた。
坊さんはBの持ち物を全て預かると言い、
俺達2人も持ち物を全て出すように言った。
俺は携帯と財布を坊さんに手渡し、
旅行鞄の方に入っている巾着袋を
処分してもらえるよう頼んだ。
坊さんは頷き、再度Bに竹筒の水を飲ませ、
吹きかけた。
そして俺達3人がおんどうの中に入ると、
坊「この扉を開けてはなりません。
皆、本堂の方におります。
明日の朝まで、
誰もここに来ることはありません。
そして、壁の向こうのものと
会話をしてはなりません。
このおんどうの中でも
言葉を発してはなりません。
居場所を教えてはなりません。
これらをくれぐれも
お守りいただけますよう、
お願いします」
そう言って俺達の顔を見渡した。
俺達は頷くしかなかった。
このとき既に、言葉を発してはならない気がして、
怖くて何も言えなかったんだ。
坊さんは俺達の様子を確認すると、扉を閉め、
そのまま何も言わず行ってしまった。