自動ドア 1/2

自動ドア

 

先日、ある店に入ろうとした時に

自動ドアが開かないということがあった。

 

さっき出たばかりのドアなのに、

戻ろうとすると反応がない。

 

苦笑して別のドアから回り込んで入った。

 

こういう時は、

えてして別の目撃者がいない。

 

ある種、個人的な経験だと、

自嘲気味に考える。

 

その時、

ふと大学時代のことを思い出した。

 

学生の頃は、

 

自動ドアが開かないことが

日常茶飯事だった。

 

一人暮らしの大学生なんてものは、

 

毎日3回以上はコンビニに行くものと

相場が決まっている。

 

俺もキャンパス近くの学生の街といえる

場所に住んでいたために、

 

周辺はコンビニだらけ。

 

なにが楽しいのか、

 

朝から晩までことあるごとに、

時間を潰しがてら入り浸っていた。

 

そんな時、

 

大学1回生の夏ごろからだろうか、

自動ドアが開かないということが多くなった。

 

昨日と同じコンビニに、

昨日と同じ服を着て入ろうとしているのに、

 

なぜか開かない。

 

思わずドア上部のセンサーらしき

ところを見上げながら、

 

顔を動かしてみる。

 

開かない。

 

体を前後左右に動かしてみる。

 

開かない。

 

一度離れて、

 

まるで別人が通りがかったかのように

やり直してみる。

 

やっと開いた。

 

というようなことがままあったのだった。

 

これもまた大学生のつねで、

 

社会の中で自分がひどく

小さい人間に感じられて、

 

己の存在意義なんてものに悩み、

 

鬱々としていたりする時に

こんなことがあると、

 

なにか象徴的な出来事のように思われて

少々へこむ。

 

ドアの前でどうしようもなく佇む俺の横を、

 

コギャルがPHSでバカ話をしながら、

あっけなくドアの中へ消えていくのを見ると、

 

なんともいえない敗北者の気分になったりする。

 

『おまえは人権5級だから、

自動ドアを使う権利がありません』

 

そんなことを言われているような気がする。

 

「またドアが開かなかった」

 

という自嘲気味のセリフは、

一時の俺の挨拶のようなものになっていた。

 

そんな日々も、

 

当時の熱病のようなオカルト三昧の生活とは

無関係ではなかったように思う。

 

その頃の俺は、

 

大学のサークルの先輩でもある、

俺にオカルトのイロハを叩き込んでくれた師匠に、

 

まるで金魚の糞のごとく付いて回っていた。

 

ファミマに入ろうとして

二人で並んで自動ドアの前に立つも、

 

まるでただのガラスのように開く気配がない。

 

しばし突っ立っているが、

やがて師匠が「ちょっと動いてみ」というので、

 

反応する場所を探そうと

体をあちこち動かしてみる。

 

開かない。

 

そして二人して動いたり離れたり

また戻ったり、

 

恐ろしく間抜けな動きを繰り返した末に、

 

なんの前触れもなくドアがスーッと

開いたかと思うと、

 

レジ袋に100円の麦茶のパックを詰め込んだ

不健康そうな男が出てきて、

 

「どいて」と言われたりする。

 

こんなことが生活圏のコンビニで

度々あったものだった。

 

ある時、師匠が言った。

 

「コンビニの怪談に、

 

深夜に誰もいないはずなのに

ドアが開くって話があるだろう。

 

あれと逆だね」

 

そういえば俺も経験があった。

 

ある寝苦しい夜に、

 

近所のコンビニで涼みがてら

立ち読みをしていた時のこと。

 

「いらっしゃいませ」

 

という店員の声に

何気なく本から顔をあげると、

 

自動ドアがスーッと開いたきり

誰も入ってこない。

 

入り口を横切っただけかと思い、

また本に目を落とす。

 

しばらくすると、

 

今度は「ありがとうございました」

という店員の声。

 

入り口を見ると、

 

またドアだけがスーッと開いて、

誰の影も見えない。

 

店内を見渡すと、

立ち読み客が俺を含めて二人だけ。

 

店員の若い兄ちゃんは、

手元でなにか黙々と書いている。

 

顔も上げずに、

ドアの開く音に反応しているだけらしい。

 

なぜか背筋に気味の悪い感覚がのぼってくる。

 

もう一度店内を見回す。

 

深夜特有の、

だらけた空気が漂っている。

 

店員も俺たちがいるせいで奥に引っ込めず、

早く帰らないかなという思いでいるに違いない。

 

外は暗い。

 

学生の街だから、

暗さのわりに深夜でも人通りは多い。

 

誰とも知れない人の影が、

暗い路地を行き来する光景は、

 

こうして明るい店内からガラス越しに

見ていると不気味だった。

 

店員があくびをする音が聞こえた。

 

顔を下げたままだ。

 

深夜、

 

この店が一人勤務体制というのは

よく知っている。

 

万引きされても気がつかないんじゃないか。

 

そう思った時、

あることに気がついてゾクリとする。

 

最初にドアが開いた時、

 

店員は見もしないで

「いらっしゃいませ」と言った。

 

次にドアが開いた時は、

「ありがとうございました」。

 

どうして二度目も、

「いらっしゃいませ」ではなかったのだろうか。

 

店員はそちらを見てもいない。

 

そして実際に誰も出入りはしていないのだから、

どうして使い分けたのか理由がわからない。

 

まるで目に見えない誰かが入り込み、

そして出て行ったようではないか。

 

ここに居たくないという

脅迫めいた感じが強くなり、

 

俺は雑誌を棚に戻して

足早に店を出た。

 

ドアが開いて、

そして閉じる時、

 

店員の間抜けな

 

「いらっしゃ、

ありがとうございました」

 

という声が背中に響いた。

 

(続く)自動ドア 2/2

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