降霊実験 1/2

ロウソク

 

大学一年目のGWごろから、

 

僕はあるネット上のフォーラムに

よく顔を出していた。

 

地元のオカルト好きが集まる所で、

深夜でも常に人がいて結構盛況だった。

 

梅雨も半ばという頃に、

 

そこで『降霊実験』をしようという

話が持ち上がった。

 

常連の人たちはもう何度か

やっているそうで、

 

オフでの交流もあるらしかった。

 

オカルトにはまりつつあった僕は

なんとか仲間に入りたくて、

 

『入れて入れて。いつでもフリー。超ひま』

 

とアピールしまくってOKが出た。

 

中心になっていたkokoさんという女性が、

彼女曰く霊媒体質なのだそうで、

 

彼女が仲間を集めて降霊オフを

よくやっていたそうである。

 

日にちが決まったが

都合がつく人が少なくて、

 

koko、みかっち、京介、僕、

というメンバーになった。

 

人数は少ないが3人とも常連だったので、

 

「いいっしょー?」

 

もちろん異存はなかったが、

 

僕は新入りのくせにある人を連れて

行きたくてうずうずしていた。

 

それは僕のサークルの先輩で、

僕のオカルト道の師匠であり、

 

霊媒体質でこそないが、

いわゆる『見える』人だった。

 

この人の凄さに心酔しつつあった僕は、

オフのメンバーに自慢したかったのだ。

 

しかし、

 

師匠に行こうと口説いても、

頑として首を縦に振らない。

 

「めんどくさい」

「ばかばかしい」

「子守りなんぞできん」

 

僕はなんとか説得しようと

詳しい説明をしていたら、

 

kokoさんの名前を出した所で

師匠の態度が変わった。

 

「やめとけ」

 

と言うのである。

 

「なぜですか」と驚くと、

「怖い目にあうぞ」。

 

口振りからすると、

知っている人のようだったが、

 

こっちは怖い目にあいたくて

参加するのである。

 

「まあ、とにかく俺は行かん。

 

何が起きてもしらんが、

行きたきゃ行け」

 

師匠はそれ以上、

なにも教えてくれなかったが、

 

師匠のお墨付きという思わぬ所からの

オフの楽しみが出てきた。

 

当日、

市内のファミレスで待ち合わせをした。

 

そこで夕食を食べながら

オカルト談義に花を咲かせ、

 

いい時間になったら会場である

kokoさんのマンションに移動、

 

という段取りだった。

 

kokoさんは綺麗な人だったが、

 

抑揚のないしゃべり方といい、

気味の悪い印象をうけた。

 

みかっちさんはよく喋る女性で、

 

kokoさんは時々それに相槌を

こっくり打つという感じだ。

 

驚いたことに、

2人とも僕の大学の先輩だった。

 

「キョースケはバイトあるから、

あとで直接ウチにくるよ」

 

とkokoさんが言った。

 

僕はなんとなく、

恋人同士なのかなあと思った。

 

そして夜の11時を回る頃、

 

みかっちさんの車で

3人でマンションに向かった。

 

京介さんからさらに遅れるという連絡が入り、

もう始めようということになった。

 

僕は俄然ドキドキし始めた。

 

kokoさんはマンションの一室を

完全に目張りし、

 

一切の光が入らないようにしていた。

 

こっくりさんなら何度もやったけれど、

こんな本格的なものは初めてだ。

 

交霊実験ともいうが、

 

降霊実験とはつまり、

霊を人体に降ろすのである。

 

真っ暗な部屋に入ると、

ポッと蝋燭の火が灯った。

 

「では始めます」

 

kokoさんの表情から、

一切の感情らしきものが消えた。

 

「今日は初めての人がいるので

説明しておきますが、

 

これから何が起こっても決して騒がず、

心を平静に保ってください。

 

心の乱れは、

必ず良くない結果を招きます」

 

kokoさんは淡々と喋った。

 

みかっちさんも押し黙っている。

 

僕は内心の不安を隠そうと、

こっくりさんのノリで、

 

「窓は開けなくてもいいんですか?」

 

と言ってみた。

 

kokoさんは能面のような顔で

僕を睨むと囁いた。

 

「窓は霊体にとって結界ではありません。

通り抜けることを妨げることはないのです。

 

しかし、これから行なうことは、

私の体を檻にすること。

 

うまく閉じ込められればいいのですが、

万が一・・・」

 

そこで口をつぐんだ。

 

僕はやり返されたわけだ。

 

逃げ出したくなるくらい、

心臓が鳴り出した。

 

しかし、

もう後戻りはできない。

 

降霊実験が始まった。

 

僕は言われるままに目を閉じた。

 

蝋燭の火が赤くぼんやりと

瞼に映っている。

 

どこからともなく、

kokoさんの声が聞こえる。

 

「・・・ここはあなたの部屋です。

 

見覚えのある天井。

窓の外の景色。

 

・・・さあ起き上がってみてください。

伸びをして、立つ。

 

・・・すると視界が高くなりました。

あたりを見まわします。

 

・・・扉が目に入りました。

あなたは部屋の外に出ようとしています」

 

これはあれではないだろうか。

 

目をつぶって頭の中で

自分の家を巡るという。

 

そして、その途中でもしも・・・

という心理ゲームだ。

 

始める直前にkokoさんが言った言葉が

頭をかすめた。

 

『普通は霊媒に降りた後、

残りの人が質問をするという形式です。

 

しかし、私のやり方では、

あなた方にも“直接”会ってもらいます』

 

僕は事態を飲み込めた。

 

恐怖心は最高潮だったが、

こんな機会は滅多にない。

 

鎮まれ心臓。

鎮まれ心臓。

 

僕はイメージの中へ没頭していった。

 

(続く)降霊実験 2/2

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