降霊実験 2/2

ロウソク

 

「く」と言う変な声がして、

kokoさんが体を震わせる気配があった。

 

「手を繋いでください。輪に」

 

目を閉じたまま手探りで、

僕らは手を繋いだ。

 

フッという音とともに

蝋燭の火照りが瞼から消え、

 

完全な暗闇が降りてきた。

 

かすかな声がする。

 

「・・・あなたは部屋を出ます。

 

廊下でしょうか。

キッチンでしょうか。

 

いつもと変わりない、

見慣れた光景です。

 

あなたは十分見回したあと、

次の扉を探します・・・」

 

僕はイメージのなかで、

下宿ではなく実家の自室にいた。

 

すべてがリアルに思い描ける。

 

廊下を進み、

両親の寝室を開けた。

 

窓から光が射し込んでいる。

 

畳に照り返して僕は目を細める。

 

僕は階段を降り始めた。

 

キシキシ軋む音。

手すりの感触。

 

すぐ左手に襖がある。

客間だ。

 

いつも雨戸を降ろし、

昼間でも暗い。

 

僕は子供の頃、

ここが苦手だった。

 

かすかな声がする。

 

「・・・あなたは歩きながら探します。

 

・・・いつもと違うところはないか。

・・・いつもと違うところはないか」

 

いつもと違うところはないか。

 

僕は客間の電気をつけた。

 

真ん中の畳の上に、

切り取られた手首が落ちていた。

 

僕は息を飲んだ。

 

人間の右手首。

 

切り口から血が滴って、

畳を黒く染めていた。

 

この部屋に居てはいけない。

 

僕は踵を返して、

部屋を飛び出した。

 

廊下を突っ切り、

1階の居間に飛び込んだ。

 

ダイニングのテーブルの上に、

足首が転がっていた。

 

僕は後ずさる。

 

まずい。

 

失敗だ。

 

この霊はやばい。

 

もう限界だ。

 

僕は目を開けようとした。

 

開かなかった。

 

僕は叫んだ。

 

「出してくれ!」

 

だがその声は、

誰もいない居間に響くだけだった。

 

僕は走った。

 

家の勝手口に僕の靴があった。

 

履く余裕もなくドアをひねる。

 

だが押そうが引こうが開かない。

 

「出してくれ!」

 

ドアを両手で激しく叩いた。

 

どこからともなく、

かすかな声がする。

 

しかしそれは、

もう聞き取れない。

 

僕は玄関の方へ走った。

 

途中で何かにつまずいて転んだ。

 

痛い。

 

痛い。

 

本当に痛い。

 

つまづいたものをよく見ると、

両手足のない人間の胴体だった。

 

玄関の扉の郵便受けが

カタンと開いた。

 

何かが隙間から出てこようとしていた。

 

僕はここで死ぬ。

 

そんな予感がした。

 

その時、

チャイムの音が鳴った。

 

「ピンポンピンポンピンポンピンポン」

 

続いてガチャっという音とともに、

明るい声が聞こえた。

 

「おーっす!やってるか~」

 

気がつくと、

僕は目を開いていた。

 

暗闇だ。

 

だが、間違いなくここは、

kokoさんのマンションだ。

 

「おおい。ここか」

 

部屋のドアが開き、

蛍光灯の眩しい光が射し込んできた。

 

kokoさんとみかっちさんの顔も見えた。

 

「おっと、邪魔したか~?

スマン、スマン」

 

助かった。

 

安堵感で手が震えた。

 

光を背に扉の向こうにいる人が

女神に見えた。

 

その時kokoさんが「邪魔したわ」と、

小さく呟いたのが聞こえた。

 

僕は慌ててkokoさんから手を離した。

 

僕は全身に嫌な汗をかいていた。

 

僕は後日、

師匠の家で事の顛末を大いに語った。

 

しかし、

 

この恐ろしい話を師匠は

くすくす笑うのだ。

 

「そいつは見事にひっかかったな」

 

「なにがですか」

 

僕はふくれた。

 

「それは催眠術さ」

 

「は?」

 

「その心理ゲームは、

 

本来そんな風に喋り続けて

イメージを誘導することはない。

 

いつもと違うところはないか、

なんてな」

 

僕は納得がいかなかった。

 

しかし師匠は断言するのだ。

 

「タネを明かすと俺が頼んだんだ。

お前が最近調子に乗ってるんでな。

 

ちょっと脅かしてやれって」

 

「やっぱり知り合いだったんですか」

 

僕はゲンナリして、

へそのあたりから力が抜けた。

 

「しかし、ハンドルネーム『京介』で

女の人だったとは。

 

僕はてっきりkokoさんの彼氏かと

思いましたよ」

 

このつぶやきにも師匠は笑い出した。

 

「そりゃそうだ。

kokoは俺の彼女だからな」

 

翌日サークルBOXに顔を出すと、

師匠とkokoさんがいた。

 

「このあいだはごめんね。

やりすぎた」

 

頭を下げるkokoさんの横で、

師匠はニヤニヤしていた。

 

「こいつ幽霊だからな。

同じサークルでも初対面だったわけだ」

 

kokoさんは昼の陽の下に出てきても、

青白い顔をしていた。

 

「ま、お前も、霊媒だの

下らんこと言って人を騙すなよ。

 

俺が催眠術の触りを教えたのは、

そんなことのためじゃない」

 

kokoさんはへいへいと

横柄に返事をして、

 

僕に向き直った。

 

「茅野、歩く、と言います。

よろしくね、後輩」

 

それ以来、

僕はこの人が苦手になった。

 

その後で師匠はこんなことを言った。

 

「しかし、手首だの胴体だのを

見たってのはおかしいな。

 

いつもと違うところはないかと言われて、

お前はそれを見たわけだ。

 

お前の中の幽霊のイメージはそれか?」

 

もちろんそんなことはない。

 

「なら、いずれそれを見るかもな」

 

「どういうことですか」

 

「ま、おいおい分るさ」

 

師匠は意味深に笑った。

 

(終)

次の話・・・「足音

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