三人目の大人 2/2

教室

 

師匠は言う。

 

「その三人目の大人を描いた子どもが、

家族と住んでいた部屋だ」

 

「実話なんですか」

 

そう聞くと、頷きながら、

 

「もともと巷の怪談として

広まってるわけじゃなくて、

 

個人的なツテで収集した話だ」

 

と言って、

部屋を照らしていた懐中電灯を消した。

 

深夜の1時過ぎ。

 

辺りは暗闇に覆われる。

 

どうして明かりを消すんだろう

と思いながら、

 

じわじわとした恐怖心が

鎌首をもたげてくる。

 

※鎌首をもたげてくる

よくないことの起こるきざしがある。

 

「怪談の意味はわかったよな」

 

と師匠らしき声が、

暗がりから聞こえる。

 

なんとなく、わかる。

 

母親が最後に悲鳴をあげるのは、

その三人目の大人が、

 

本来そこに描かれていては

おかしい人物だったからだ。

 

まったく心当たりのない人物ではない。

 

そうならば『誰かしら』と首を捻るくらいで、

そこまで過剰な反応は起こさないだろう。

 

知っているのに、

そこにいてはいけない人物。

 

それも、

死んでいなくなった家族などであれば、

 

それを絵の中に描いた男の子の感性に

涙ぐみこそすれ、

 

恐怖のあまり悲鳴をあげたりは

しないだろう。

 

知ってはいるが、

家族であったこともなく、

 

しかもテーブルを囲んでいては

いけない人物。

 

暗い部屋に微かな月の光が

滲むように射し込み、

 

柱や壁や目の前に座っているはずの

師匠の輪郭を、

 

おぼろげに映し出している。

 

かつてテーブルが置かれていたであろう

6畳の居間に、

 

僕は身を硬くして座っている。

 

闇の中に青白い無表情の顔が

浮かび上がりそうな気がして、

 

どうしようもない寒気に襲われる。

 

師匠が張り詰めた空気を

震わせるように囁く。

 

「実は、

気づいていないかも知れないが、

 

この話を聞いた人間にも、

ある影響が自然と及ぼされる」

 

ふーっ、という息を吐き出す音。

 

僕も息を吸って、吐く。

 

「話を聞いただけなのに、

 

おまえは何故かもう、

その顔を想像している」

 

心臓が脈打ち、

耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。

 

「大人と聞いただけなのに、

 

何故かおまえはその顔を、

女ではなく、

 

口を閉じた無表情の男の顔として

想像してしまっている」

 

僕は耳を塞いだ。

 

そして目を瞑る。

 

頭が勝手に、

虚空に浮かぶ顔を想像している。

 

どこからともなく声が聞こえてくる。

 

それが、ここにいてはいけない

三人目の顔だよ。

 

(終)

次の話・・・「怪物 「承」 1/4

原作者ウニさんのページ(pixiv)

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