着物姿の不思議な少女との出会い 1/2

毎年夏、俺は両親に連れられて、

祖母の家に遊びに行っていた。

 

俺の祖母の家のある町は、今でこそ

都心に通う人のベッドタウンとして

それなりに発展しているが、

 

二十年ほど前は、隣の家との間隔が

数十メートルあるのがざらで、

 

田んぼと畑と雑木林ばかりが広がる、

かなりの田舎だった。

 

同年代の子があまりいなくて、

俺は祖母の家に行くと、いつも

自然の中を一人で駆け回っていた。

 

それなりに楽しかったのだが、

飽きることもままあった。

 

小学校に上がる前の夏のこと。

 

俺は相変わらず一人で遊んでいたが、

やはり飽きてしまって、

 

いつもは行かなかった山の方へ

行ってみることにした。

 

祖母や親に、

「山の方は危ないから言っちゃだめ」

と言われていて、

 

それまで行かなかったのだが、

退屈にはかなわなかった。

 

家から歩いて歩いて山の中に入ると、

ちょっとひんやりしていて薄暗く、

怖い感じがした。

 

それでもさらに歩いていこうとすると、

声をかけられた。

 

「一人で行っちゃだめだよ」

 

いつから居たのか、

少し進んだ山道の脇に僕と同じくらいの背丈で、

髪を適当に伸ばした女の子が立っていた。

 

その子は着物姿で、幼心に

変わった子だなと思った。

 

「なんでだめなの?」

 

「危ないからだよ。山の中は

一人で行っちゃだめだよ。帰らなきゃ」

 

「嫌だよ。せっかくここまで来たんだもん。

戻ってもつまらないし」

 

俺はその子が止めるのを

無視して行こうとしたが、

 

通りすぎようとした時に、

手を掴まれてしまった。

 

その子の手は妙に冷たかった。

 

「・・・なら、私が遊んであげるから。

ね?山に行っちゃだめ」

 

「えー・・・うん。わかった・・・」

 

元々一人遊びに飽きて

山に入ろうと思い立ったので、

 

女の子が遊んでくれると言うなら

無理に行く必要もなかった。

 

その日から、俺とその女の子は

毎日遊んだ。

 

いつも、出会った山道のあたりで

遊んでいたので、鬼ごっことか

木登りとかがほとんどだった。

 

たまに女の子が、

お手玉とか毬とかを持って来て、

俺に教え込んで遊んだ。

 

「健ちゃん、最近何して遊んでんだ?」

 

「山の近くで女の子と遊んでる」

 

「女の子?どこの子だ?」

 

「わかんない。着物着てるよ。

かわいいよ」

 

「どこの子だろうなあ・・・

名前はなんつうんだ?」

 

「・・・教えてくれない」

 

実際その子は、一度も名前を

教えてくれなかった。

 

祖母も親も、その子がどこの子か

分からないようだった。

 

とりあえず、村のどっかの家の子だろう

と言っていた。

 

その夏は女の子と何度も遊んだけど、

お盆を過ぎて帰らなきゃならなくなった。

 

「僕、明日帰るんだ」

 

「そうなんだ・・・」

 

「あのさ、名前教えてよ。

どこに住んでるの?

また冬におばあちゃんちに来たら、

遊びに行くから」

 

女の子は困ったような、

何とも言えない顔をしてうつむいていたが、

何度も頼むと口を開いてくれた。

 

「・・・名前は○○。でも約束して。

絶対誰にも私の名前は言わないでね。

・・・遊びたくなったら、ここに来て、

名前を呼んでくれればいいから」

 

「・・・わかった」

 

年末に祖母の家に来た時も、

俺はやはり山に行った。

 

名前を呼ぶと、

本当に女の子は来てくれた。

 

冬でも着物姿で寒そうだったが、

本人は気にしていないようだった。

 

「どこに住んでるの?」

 

「今度、僕のおばあちゃんちに

遊びに来ない?」

 

などと聞いてみたが、相変わらず

首を横に振るだけだった。

 

そんな風に、祖母の家に行った時、

俺はその女の子と何度も遊んで、

 

それが楽しみで春も夏も冬も、

祖母の家に長く居るようになった。

 

(続く)着物姿の不思議な少女との出会い 2/2へ

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