おかんがやったんやろうなあ
母が旅行先で急死した。
脳溢血だった。
遠方にある実家の葬儀に行くため、一週間仕事を休んだ。
忌引休暇を終え、夜行バスで朝方に職場のある街に戻り、そのまま仕事をした。
仕事終わり、上司が気を遣ってくれて飲みに連れて行ってくれた。
ほどよい酔い加減で帰途につく。
一人暮らしの部屋の玄関を開けて「ただいま」といつものように言うと「おかえり」と声をかけられて、酔いも手伝ってそのままシャワーも浴びずに寝た。
朝起きて、昨日「おかえり」と言われたのを思い出し、「言ったの誰や?」と疑問に思ったが、酔っていたこともあり気のせいだと思い、朝食に湯を沸かしてカップヌードルに注いでテーブルの上に置いた。
すると、テーブルの上には一枚のハガキが。
母からの手紙。
亡くなった旅先からの手紙だったので俺は泣いた。
ハガキを鞄に入れ、職場に向かおうと部屋を出て、建物のエントランスにある郵便受けを見ると一週間分の郵便物が溜まっていたのでそれらも鞄に入れて職場へ行った。
昼休み、自分のデスクで食事をしながら溜まっていた郵便物を確認していると、「あれ?朝、部屋のテーブルになんでハガキだけがあったんや?」と、ふと思った。
確かに昨日の夜は酔っていた。
でもだからこそ、ハガキ一枚だけを郵便受けから取り出して部屋に入ったとは思えない。
きっと、“昨日「おかえり」と言ってくれたのも、ハガキを置いてくれたのも、母だったんだろう”と思うことにした。
その週末にまた実家に帰り、父にその出来事を話した。
父は、「そりゃきっとおかんがやったんやろうなあ。お前のところに遊びに行きたがってたしなあ。お前のところには行くのに俺のところには来やせんがな」と、二人で飲みながら泣いた。
あれからそういったことはないが、墓参りは欠かさないようにしている。
(終)
ええ話や、死ぐらいで子供のこと気に掛けなくなるオカンはおらへんで