ワサビの青い瞳と同じ色した空

もう15~6年前の話なんだけど、

うちにはネコが二匹いて、

 

離婚で戻って来た姉の娘が、

ハイハイしながらよく追っかけていた。

 

もとより、ネコの方は昔から子供嫌いなので

しっかり逃げていたけど。

 

ワサビという名前の若い方のネコは

性格が鷹揚で、

 

赤ん坊が寄って来ても、

さほど嫌がらなかった。

 

奴は奴なりに、

「うちの家族でオレより

ちっちゃい生きもの」

として、

 

面倒みるほどじゃないけど

受け入れてるようだった。

 

やがて姪っ子も歩き始め、

 

言葉が遅いなりに

単語を発するようになった頃、

 

ワサビが急性腎不全で

あっという間の病死。

 

遺体はペット霊園で火葬して、

そのまま納骨した・・・んだっけか?

 

まあとにかく、

それからひと月くらい経ってたかな。

 

家の二階に通じる階段の

突き当たりが窓になってて。

 

いつの間にか姪っ子が

階段昇って(危ないなぁ・・・)

 

その窓から晴れた空を

ジッと見上げていた。

 

私と姉が「なに見てるの?」と聞くと、

姪っ子は青空を指さして、

 

「アチャビ! アチャビ!」

 

とよく回らぬ舌で、

嬉しそうに叫んだ。

 

つられて私達も空を見る。

 

そこには雲ひとつない初夏の天空が、

小さな窓を青く染めているばかり。

 

姉と私は、

思わずつぶやいた。

 

「・・・子供には見えるのかな」と姉。

「そうだね。見えるんだろうね」と私。

 

それから二人で申し合わせたように、

ワサビの青い瞳と同じ色した空へ向かって

合掌したのでした。

 

(終)

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