夜その和室には入りたくなくなる
これは、一人暮らしをしていた時の話。
東大阪市の3LDKのマンションで、和室が1部屋、残りは洋室。
当時の職場もそのマンションから近く、築15年そこらで綺麗な物件のわりに家賃も月7万円で、掘り出し物の物件だと思っていた。
でも、どうにもそのマンションに1部屋ある和室がよくなかった。
日中はそうでもないのだが、夜はなんだかその和室には入りたくなくなるのだ。
特に襖を開けたくない。
というか、襖に近づきたくない。
幸い3LDKで一人暮らしだったからスペースは余っていたので、和室は洗濯物を取り入れてアイロンをかけるまでの間、その洗濯物を置いておくための専用の部屋にしていた。
そんな感じで和室を持て余しながら生活していたが、ある日、猫を拾った。
その猫は今となっては俺の大事な相棒で、それに俺は猫が大好きだ。
半日張り付いて様子を見たが、親もいなさそうだったので迷うことなくウチに連れて帰った。
サビ猫だから柄は一般受けしないかもしれないが、俺からすれば愛らしくて本当に可愛い猫だった。
そんなこんなで動物病院に連れて行ったりと、拾ったサビ猫は我が家に居つくことになったわけだが、当時住んでいたマンションはペット可なのかどうかがわからなかった。
入居時に管理会社や大家さんにもそんなことは聞いていない。
広さ的には3LDKあるので猫1匹飼うには十分だったが、やっぱりあの和室の嫌な感じも頭に引っかかっていた。
猫のサビ(仮名)も家中しっちゃかめっちゃかにするくせに、やっぱりというか和室にだけは絶対に入らない。
和室で洗濯物のアイロンがけをしていると、サビが遠目からこちらを見てニャーニャーと鳴いていた。
普段は鬱陶しいくらい作業の邪魔をするくせに、和室には絶対に入って来なかった。
そんな理由もあって、猫と暮らせるマンションに引っ越しを決意した。
今は無事に引っ越して、猫と暮らせる2DKのマンションで暮らしている。
サビもスクスク育って元気だ。
振り返って思うと、あのマンションで暮らしていた頃の俺は、ちょっと異常だったのかもしれない。
当時は仕事のストレスだと思っていたが、サビと会うまでは何故かすごく気分が滅入っていた。
今でも腕などに痕が残っているが、二の腕や足の腿に血が出てカサブタが出来るまで掻き毟っていた。
サビも取り込んで和室に置いていた洗濯物に近づきもしなかったくせに、今のマンションだとまるでライフワークのように取り込んだ洗濯物に潜り込んで隠れている。
あのマンションのあの和室、絶対にヤバかったのだろう。
もしサビを拾わなかったら、あそこから逃げられたかどうか。
きっと俺は、サビを救ったつもりでサビに救われたのだと思う。
(終)