ドアを開けると部屋に入って来ようとする野良猫
就職で初めて一人暮らしを始めた頃の話。
慣れない生活のせいか、どうもいつも体がダルくて辛かった。
寝ても熟睡できていないのか、目覚めた時は寝る前よりも疲れている感じがしていた。
ある日どうしても起きれなくて、体調不良ということで仕事を休んで寝ていたのだが、ドアの外で野良猫が「ンァーンァー」と鳴いていて、うるさくて眠れない。
その猫は引っ越した当初からアパートの周りをウロウロしていて、部屋のドアを開けるとすぐ入って来ようとしたりしていた。
おそらく前の住人が置き去りにしたんだろうと思っていたが、ペットを飼ってはいけないアパートだし、猫を飼ったことがない俺は怖いから無視していた。
みんな猫に一礼して通って行く
そして、眠くて辛いのにうるさくて仕方ないから、ハムでもやれば大人しくなるかと思ってハムを持ってドアを開けた。
すると、猫はスルッと凄い勢いで部屋に入ってきて、布団の枕の上にゴロンとなってしまった。
窓を全開にしてシッシッと追い出そうとしたり、新聞紙を丸めてツンツンしたり、怒鳴ってみたりもしたが全く動かない。
その後、猫の追い出し方をネットで相談したり掴み方を調べたりしているうちに、結局そのまま夕方になってしまった。
俺は夕飯と砂と餌を買いに、スーパーに行くことになってしまった。
よく休めなかったが、仕事をしなかったからか、体は随分と楽になった。
翌日からは家事と仕事に加えて猫の世話までする羽目になり、忙しくて大変だったが、体が慣れてきたのか楽に出来るようになった。
猫は相変わらずいつも俺の枕の上に座っていた。
しばらくした頃、友人が遊びに来て、部屋で茶を飲みながら「最近顔色が良いんじゃないか?」と言われた。
が、友人は猫を見て呆然としていた。
そして、「みんな猫に一礼して通って行く・・・」と呟いた。
実は、友人はとても霊感が強くて、この部屋が霊の通り道になっているのを知っていたのだが、俺は霊感が全くないから大丈夫だろうと、特に言わないでおいたらしい。
しかし、調子が悪いようなら忠告しようと思って来たという。
猫はいつも通り、枕に座って半目を開けてじっとしているのだが、友人曰く、霊が必ず猫の前で立ち止まって頭を下げて回り道して行く、と。
もし猫が居なければ霊は布団の上を歩いて行くことになり、俺は毎晩ずっと霊に踏み付けられていたことになる。
なんだかよく分からないが、そんなことを言われて気持ちがいいわけもなく、お金が貯まってからペット可の物件に引っ越した。
それからも猫は至って普通で、昨日も俺の上で寝ていたせいで、俺は体がバキバキになってしまった。
(終)
霊の次は猫に踏まれる生活
それはとても素敵な生活
霊は踏んじゃダメだけど、俺はいいの。(猫談)