大昔の景色を時空を超えて見てしまったようだ
これは、俺がまだ小さかった頃の話。
小学校の裏山に登ると、広い平地を見渡せて気持ちが良かった。
手前には常磐線が見えて、その向こうには田畑や工場地帯だ。
ある日その田畑のエリアに、なんと『蒸気機関車』が走っているのを見たんだ。
煙をモクモクさせて、ゆったりと走っていた。
蒸気機関車は、テレビやアニメの銀河鉄道999でしか見たことがないのに。
親にこの事を話すと、昭和の初め頃までは、ちょうどその田畑の所に線路があったんだそうな。
常磐線のある駅と鉱山入り口を結ぶ短い路線で、石炭運搬に使われていたらしい。
どうやら大昔のその場所の景色を、時空を超えて見てしまったようだ。
その時はそれだけだったが、これには後日談がある。
俺は東京で就職して10数年、田舎に戻ることになった。
そして親が遺してくれた一軒家に今は住んでいる。
その家は、俺が東京にいる間に親が新築で購入した念願の一軒家なのだが、実は前述の蒸気機関車が走っていた路線の終着駅の駅舎がかつて建っていた場所に建っている。
つい最近、たまたま古い郷土史の本を読んでこの事実を知った。
あの日あの情景を見たから今ここに住んでいるのか?
それとも、将来ここに住むことが分かっていたから蒸気機関車が少年時代の俺に姿を見せてくれたのか?
どちらが原因で、どちらが結果なのかは分からない。
ただ、蒸気機関車のちょっとしたイタズラ心だったとしたら面白いな、と思った。
(終)