休憩室に隠されていた部屋 2/2
宛先が昔の弁当屋の名前になっていた。
さらに、葉書の表側には・・・
頭が変な風に横に潰れて大きく、
のっぺらぼうで口だけが裂け、
手足が異様に細い白いぬいぐるみが、
踊っているような絵が書いてあった。
葉書は2年くらい前に届いたもので、
場所が遠いので行けないと思いながらも、
記載してあった画廊に問い合わせると、
そんな展示の予定は無いと言われたそうだ。
「なんか捨てるに捨てられなくてさあ」
と言いながら、
先輩はそれを引き出しにしまい込んだ。
その後しばらくは、
先輩と連絡し合ったりしていたけれど・・・
今年の春、
店が老朽化で建て替えになるので、
「この機会に、
両親の面倒を見るため田舎に帰る」
という電話が来た。
何度か連絡しようとしたけれど、
携帯を変えたらしくて通じなかった。
暑中見舞いも出してみたけれど、
宛先不明で戻って来た。
結局は何だったのか分からないままだが、
俺はもうあそこには行かない。
後日談
バイトを辞めてからも、
なんだかずっと心に引っかかっていた。
ネットでオカルトなどを調べてみたけれど、
似たような話が全然無かった。
いろいろ考えた末に、
俺が頭を怪我した理由として、
俺だけが”茶髪”だったことくらいしか
本当に思いつかない。
先輩に見せてもらった葉書に書かれていた
ぬいぐるみのような絵は、
昔に教育テレビでやっていた番組の
タップくんに似ていた。
※参考:タップくん
けれども、
もっと不愉快な感じのものだったが・・・
変な風にねじくれた印象だった。
そして先月の終わり、
あの店があった場所へ行った。
店はまだ取り壊していなかった。
『都合により閉店します』
という張り紙がまだ貼ってあって、
ウィンドウから覗いてみたら、
中の什器などは全部残っていた。
※什器(じゅうき)
商品やカタログなどを陳列・設置・掲示するための器具・器材。
カウンターの上には、
使った食器が出っぱなしだった。
あの女から届いた葉書は、
きっとまだカウンターの引き出しにあると思う。
先輩はあの女が好きだったから。
もう行きたくないという気持ちと、
もう一度あの絵を見たい気持ちの両方ある。
先輩の消息も知りたい心配な気持ちと、
もう関わりたくないような感じもする。
(終)