ママと主人が夜逃げしたスナックでの怪

飲み屋街

 

これは、20年くらい前の体験話。

 

当時、私はスナックでバイトをしていた。

 

スナックには雇われママさんとそのご主人がいて、私ともう一人、5歳年上のお姐さんの4人で店を回していた。

 

みんな仲が良くて、それに私とお姐さんの送り迎えはご主人がしてくれていた。

 

ある日のこと、ご主人から電話で「ちょっと早いけど迎えに行っていいか?」と聞かれ、「はい、お待ちしています」と答えた。

 

そして店に着くと、ご主人が「夕べ、鍵を閉めて帰ったんだけど、今日来てみたらイスもテーブルも滅茶苦茶なんだ。鍵を持ってるのは俺だけだしなぁ」と困惑気味に言った。

 

確かに店内は荒れていた。

 

二人でそれを片付けた後に、「今までも、たまにこんなことがあったんだよなぁ」とご主人。

 

「ママさんは知っているんですか?」

 

ご主人「うん、知ってる。だから一人でここに来ないようにしてる。繊細な人だから」

 

「お祓いとかしたらどうですか?」

 

ご主人「客商売だし、あまりしたくないなぁ」

 

そんなことを話して、その日も淡々と仕事をした。

 

それから数日後、酔っ払ったママさんとこんな話をした。

 

ママさん「あんた、テーブルやイスが動くって聞いて辞めないよね?」

 

「別に私に被害がないので…」

 

ママさん「私は怖いよ。本当に怖い。今すぐ何もかも放り出したいけどねぇ」

 

この会話をした10日後、ママさんとご主人は夜逃げした。

 

お姐さんと二人でちょっと途方に暮れたけれど、私は他のバイト先が決まり、お姐さんは実家へ帰った。

 

あのイスやテーブルが動く現象が何なのかわからないけれど、ママさんたちの夜逃げの後、あの店に入る店子は半年ほどの周期で変わっている。

 

(終)

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