どこかで見たことのある風景
私の友人(M君)で「霊感がある」という奴がいるのですが、彼から聞いたとても不思議で不可解な話です。
僕たちの住んでいる駅前には大きな団地が並んでおり、M君は駅を利用する行き帰りはいつもその団地内を突っ切っていました。
ある日、家に帰ろうといつものように団地内を歩いていました。
その日は仕事も残っており、普段より足早で家路に向かったそうです。
いつもは子供が遊んでいたり、買い物帰りの主婦で比較的この近辺では賑わっている場所ですが、夜もだいぶ更けていたということもあり、辺りにはあまり人影は見かけられなかったそうです。
1号棟、2号棟と過ぎた後、砂場とベンチとブランコしかない小さな公園に差し掛かった頃、チラッと人影が見えました。
こんな夜遅くに何をしているんだろうと、遠目から目を凝らしてみると、それは女性の首吊り死体だったそうです。
こんな時に何でこんなもんが・・・。
これを見て欲しいんだ
普通だったら逃げ出すぐらいビックリしてパニックに陥るところでしょうが、M君は肝が据わっているというか何というか、半ば面倒なもんを見つけちゃったという気持ちで警察に通報しました。
警察が到着すると野次馬もだいぶ増え、その後のM君に待っていたのは長い事情聴取でした。
首を吊っていた砂場の横の木を正面に見据えられるベンチに座らされ、隣には警察官が座り、同じことを何度も質問されたそうです。
結局、家に帰っても仕事どころではなく、その日はすぐに眠りについたそうです。
次の日の朝、M君は会社に行く準備をしていると警察から電話があり、「すぐに署に来て欲しい」と言われました。
「会社に行かなくちゃいけないし、発見当時の状況は昨日何度も説明したでしょ」と答えると、「そうじゃない。君に見てもらいたいものがある」と、なんだか変な様子だった為、渋々ながら警察に向かったそうです。
署に着くと、昨日の警官が迎えてくれて部屋に通されました。
着いた早々、M君は何で呼んだかを詰めると、なんだかその警官は何かを言い辛そうな感じでモゴモゴしていたそうです。
M君が怪訝な顔をしていると、「確かにあの女性とは面識が無いんだよね?いや、女性のお母さんに遺書を探してもらってたんだけど、変なものが出てきちゃって」と一言口を開いた途端、堰を切ったように話し出し、茶封筒から一冊のスケッチブックを取り出しました。
「これを見て欲しいんだ」
M君は手渡され、一枚一枚ページをめくっていました。
なにやら絵の学校に通っていたのか、そこには果物や家具などのデッサンが書かれていました。
そして、その中に一枚だけ風景画が混じっていました。
どこかで見たことのある風景・・・。
そこにはブランコがあり砂場があり、その横の木にロープをくくって首を吊っている女・・・。
そして、ベンチには一人の青年と警官らしき人が座っている絵でした。
そのスケッチブックは鍵の掛かった机の引き出しから出てきたもので、その女性以外の指紋も見つかっていないらしく、とにかくその後もM君は女性との関係を問い詰められたそうです。
M君は、「だったら何でおまわりさんも描かれてるんだ」と、半ば二人してパニックになりながら言い争ったそうです。
結局、埒も明かずM君は帰してもらい、その事件は『遺書無しの自殺』ということで片付いたそうです。
M君には霊感も多少あり、今までに霊現象を体験したこともあるそうですが、これほど不可解で恐ろしいことはなかったそうです。
(終)