中古で買ったビルの壁の中に隠されていたもの
子供の頃のこと。
叔父が中古のビルを買った。
そのビルの内装工事をしていて様子を見に行くとかで、俺も連れて行ってもらった。
ビルと言っても小さいもので、築20年は経っていそうなボロだ。
大掛かりなリフォームをするらしく、俺達がビルに着いた時には結構な人数の職人さん達が忙しそうに働いていた。
面白そうなので、俺は入口近くの邪魔にならないところでしばらく見ていた。
すると、廊下の壁際で電気設備をいじっていた人が、「あれ?ここに変な隙間がある」と叫んだ。
職人さん達がわらわら集まりだし、「本当だ、何だこれ?」とか言って、確認のために壁の一部に少し穴を開けた。
俺も見せてもらったが、隙間というよりは壁が二重になっている感じだった。
結局、壁全体を剥がしてみることになった。
剥がすのに時間が掛かったが、叔父も連れの人も俺も興味深々だったのでずっと見ていた。
予想通り、壁は二重になっていた。
二重になっていたのは廊下全体の壁ではなく、180センチ程の一部分のみ。
隙間の奥行きは40センチ程。
換気用の穴も無い、完全な密閉空間だった。
棚などの家具は何も無かったが、床に何か置いてあった。
見てみると、小さいテーブルのような物と、その上には茶碗と箸、湯のみが一つずつ。
他には、何かいっぱい書かれている紙切れが数枚。
それらを見た職人さん達は、「物入れにしてたのを塞いだんだろ」と納得し、それでお終いになった。
だが、若い職人さんが「その中のもん、片付けろ」と命令され、「はい」と言って茶碗を持った途端、「うわっ」と叫ぶと同時に茶碗投げ出し、「柔らかい・・・」と呟いた。
若い職人さんは親方っぽい人に怒られていたが、顔を青ざめながら、「だって、この茶碗の中の飯粒、まだ柔らかいんですよ・・・さっき食べたばかりみたいに・・・」と言った。
その後のことはよく覚えていない。
家に帰ると母親が、「工事現場なんて危ない所に子供を連れて行くなんて!」と叔父に怒りまくって修羅場になり、そっちの方が俺には怖かった。
(終)