家のトイレから出てきた謎の老人
私が7歳くらいの時の話です。
家族は父、母、祖父、祖母、私、弟の6人。
夜9時、祖父を除く5人でかるたをしていた私たちは、母の「もう寝ようね」の言葉でかるたを片付けようとしていました。
祖父は柱にもたれて雑誌を読んでいました。
そして何気なく廊下の方を見ると、トイレの電気がついています。
その時の私は、誰か消し忘れたのかな?くらいにしか思いませんでした。
見ちゃダメと言うが・・・
部屋と廊下は透きガラス一枚でしきられています。
やがて、電気のついたトイレから人が出てきました。
「誰かな?おばあちゃんトイレに行ってたんかな?」
そう思った私は、ふと隣を見ました。
すると、おばあちゃんは私たちと一緒にかるたを片付けています。
私はすぐに部屋にいる人数を数えました。
私を含めて6人全員が揃っています。
私のおかしな様子を見た母は、トイレの方をちらっと見ました。
そして「あっ・・・」と小さく呟きました。
すぐさま母は、隣にいた弟を抱っこしました。
父も廊下の異変に気付き、強張った表情をしています。
おばあちゃんの手が、私の手を握りました。
その手は冷たくて震えていました。
そして小声で私に「見ちゃダメ」と言うのですが、私はなぜか廊下から目が離れません。
その時、ガラス越しに白髪の老人が絣(かすり)の浴衣を着て歩いているのが見えました。
もしガラス戸を開けて入って来たら・・・と思うと、身体中が心臓になったみたいにバクバクしました。
時間的にはあまり長くなかったと思います。
ただ私たちにはとても長い時間に感じました。
そして、おじいちゃんがガラス戸を開けたと同時に、浴衣姿の老人は煙のように消えました。
その後は、おじいちゃんが塩を撒いていた記憶があります。
(終)