数ある笹の中で一本の笹に目をやった瞬間
これは、俺が小学1年生くらいの頃の出来事だったと思う。
ある日のこと、姉が同級生数人で集まって遊ぶことになった。
なぜか俺もお呼ばれされたので、姉に付いて行って一緒に遊ぶことになった。
遊び場は姉の同級生の家の庭で、とりあえずみんなで「かくれんぼをしよう」ということになった。
未だにはっきりと覚えている
だが、「鬼を決める前にまずルール決めよう」という話になったのだが、何でモメているのか全然話がまとまらない。
女の中で男は俺一人だけ。
それも一番年下だし、誰も俺の意見なんか聞いてくれそうもない。
そんな俺は話に加われず退屈だったので、そのうち庭をブラブラと歩き始めた。
しばらくして、ふいに俺は自分の後方にあった笹薮に目を向けた。
そして、数ある笹の中で一番手前にあった一本の笹に目をやった。
その瞬間、突然「バキッ」と音を立ててその笹が根元から90度へし折れた。
当然そこには誰もいないし、笹をへし折る原因になるものは何一つない。
「えっ!?なに今の?」
訳が分からなかった俺は、その場で固まってしまった。
次の瞬間、その笹が「ザザッ」と音を立てて再びまっすぐに戻った。
そして、また同じように「バキッ」と90度へし折れてまた元に戻る。
しかもよく見ると、それは根元から数センチ上のところで折れ曲がっている。
根元から折れて動いているのなら、モグラか何かの動物による仕業の可能性もあるのだろうが、そうではない。
そんなことを2~3回繰り返した後に、それはピタッと止まった。
俺はしばらく固まったままだったが、さすがに怖くなって一目散に姉のところへ逃げ込んだ。
姉は「何してんのアンタ?」みたいなことを言っていた気がするが、なぜか俺は笹のことを言えなかった。
あれからもう20年くらい経つが、当時のことを未だにはっきりと覚えているくらい不可解な出来事だった。
(終)