エレベーターの点検中に起きた不可解な状況
これは、仕事中に体験した不思議な話。
俺の仕事はエレベーターの保守点検で、その日もマンションのエレベーターを点検していた。
一通り点検を済ませ、1階から7階、7階から3階、3階から10階という感じに、適当な階から階へ移動して動きを確かめた。
そして最後に、最上階から順に扉の前に設置した点検中のバリケードを外しながら1階へ降りる。
だが4階辺りで、バリケードを外すと女性が乗り込んできた。
俺は女性に「点検が終わったばかりで各階に止まりますのでご了承ください」と告げると、女性は軽く頷いた。
異世界に迷い込んだのか?
エレベーターは1階に着き、バリケードを車に積もうとマンションの出口に向かったが、なぜか出口が見当たらない。
エレベーターを出た右側にすぐエントランスがあったはずだが、今はただの壁があるだけだ。
あれ?と思いながら暫く1階をウロウロするが、やはり出口がない。
そういえば、あの女性はどうやって外に出たんだ?と思う。
いや、そもそもエレベーターから降りた気配がなかったような・・・と思ったが、とりあえず自分の置かれた状況が分からず、女性のことは深く考えなかった。
その後、仕方がないので最上階へ向かった。
気になることがあったからだ。
それは、上から下を見た場合、エントランス付近はどうなっているのか?
13階に着き、廊下から下を見ると、人が歩いて車も通っている光景があったが、歩く人はみんな着物姿で、車は右側通行している。
また、見える看板には平仮名しか文字がない。
なんだこれは?と思い、また1階へ降りる。
1階に着くと、さっきまで壁だったところにエントランスがあった。
相変わらず全く状況が分からなかったが、急いで帰り仕度をして会社に戻った。
そして会社に着いて気付いたが、点検が終わってから1時間くらいあのマンションに閉じ込められていたはずなのに、時間的には点検が終わってすぐ会社に戻ったくらいの時間だった。
よく分からない体験だったが、それ以降はそんな不思議な体験はしていない。
(終)