繰り返される小学5年の10月
これは私が小学5年の時の話になるが、クラスでとても仲良くしているサチという女の子がいた。※名前は仮名
サチはとても明るく、アニメや漫画が好きで、歌の上手い子だった。
私は引っ込み思案で大人しかったので全然違うタイプだったが、なぜだかとても気が合う子だった。
サチは健康で学校を休んだことがなく、いつでも明るくて、「幽白の幽助が大好き!」とヲタな話をよくしていた。
授業中でもハキハキと発言をして、時にはボケて周りを笑わせたりすることもあった。
私が通っていた小学校は5年と6年が同じクラスだったので、サチと卒業するまで一緒にいられると思うととても嬉しかった。
不可解なサチの悩み事
でも、10月に入った頃からサチは雰囲気が少しずつ変わり、だんだんと大人しくなっていった。
休み時間もボーッとしていることが多く、周りの友達も「最近元気ないね」と少し心配していた。
突然挙動不審になったり、空気を読まない発言をしたり、たまに様子がおかしいと思うこともあった。
私はサチの親友だと自負していたので、放課後にサチを呼び止め、思い切って最近どうしたの?と聞いてみた。
サチは少し困ったような複雑な顔をして俯き、「あのね、○○ちゃん(私)にしか言わないよ・・・」と小声で言った。
私はとても狼狽(うろた)えたが、顔には出さないようにして「誰にも言わないよ」と、なるべくハッキリと言った。
とにかく学校を出て、近くの公園へ行くことにした。
公園は小さな子が何人か遊んでいたが、静かだった。
ベンチに座ってしばらくすると、サチがポツリポツリと話し始めた。
サチの話は、当時の私が理解の出来るような簡単な話ではなかった。
要約すると、サチは10月をずっと繰り返していて、今は5回目の10月である。
31日が終わると、朝起きたら1日に戻っている。
抜け出す方法をずっと考えて色々試してはいるが、何も変わらない。
少しだけなら起こることを変えられるが、大きくは変えられない。
・・・ということだった。
私は驚き過ぎて、しばらく何も言えなかった。
でも、不思議とサチが嘘をついているとは全く思わなかった。
私が黙っているとサチが、「この10月を繰り返す生活から抜け出す協力をして欲しい」と言ったので、少し怖かったが「私に出来ることは何でもするよ」と言った。
それを聞いたサチは、「信じてくれてありがとう」と言いながら便箋に真剣に何かを書き、「明日の朝、教室に来たら読んで」と私に渡した。
そこで別れ、渡された手紙を読みたい気持ちをなんとか抑え、翌日にドキドキしながら学校へ行った。
教室に着いてから弟の靴下を間違って履いて来たことに気付き、ビックリして思わず靴下を脱いだ。
そしてすぐ思い出してサチからの手紙を開くと、そこにはこう書いてあった。
『今日の○○ちゃんの服装は、白いブラウス、○○ちゃんのお気に入りの猫のマークのカーディガン、黒いキュロット、アリの靴下。』
『この靴下は弟君のを間違って履いて来て、それに気付いた○○ちゃんはビックリして脱いじゃうんだよ!私笑っちゃった!』
『信じてくれてありがとう!○○ちゃん大好き!ずっと仲良くしようね!幽白の続きずっと読めないなんてイヤだし、抜け出したい。頑張るよ!』
服装も靴下も当たっていて私は本当にビックリして、教室を見回してサチを探したがまだ来ていなかった。
朝の会が始まってもサチは来なかった。
それどころか、私はそれからサチと会うことはなかった。
それに、誰もサチを知らなかった。
どの写真にも写っていなかった。
当時はまだあまり流行っていなかったプリクラも、一緒に何回も撮ったのに見つからなかった。
そして今、大人になってからもたまにサチを思い出し、微妙な終わり方をした幽白の完全版を買った。
いつかサチにまた会えるんじゃないかと思っているが、まだ会えていない。
サチは本当にいたのかな?私の夢?妄想?とたまに考えるが、そんなことはないはずだ。
サチはどこに行ってしまったんだろう。
繰り返される小学5年の10月からは抜け出せたのだろうか。
(終)