高校で起きた不可解な死の連鎖 2/2
4階にある教室の前に着くと、
俺は鍵を使って扉を開けた。
すると、
中から風が吹き抜けてきた。
教室の窓が開いている。
前から二つ目の、
田中が死んだ時に開いていた窓が
全開に・・・
真正面に見える夕日に照らされた教室内に、
死んだはずの田中がいた。
以前と全く変わらない風貌で、
こちらに向かって立っている。
そして、「藤村君」・・・
・・・俺の名前を小声で呼んだ。
田中だ。
逆光で表情は見づらいが、
やっぱり田中だ。
涙が出そうになった。
今日、学校に来てよかった。
嬉しくてたまらない。
でも、涙が出ない。
この間、
あれほど流した涙が出ない。
足も、前に出ない。
気持ちは猛烈に喜んでいるのに、
その奥にある感覚が、
俺の気持ちを行動に繋げない。
何かが変だ。何かが。
・・・何が?
なんで田中は俺の名前を呼ぶばかりで、
こっちに来ないんだ?
なんで田中は鍵の掛かった教室内に居たんだ?
なんで田中は裸足なんだ?
なんで、なんで・・・
(田中!)
と叫びたい気持ちとは裏腹に、
我知らず俺は言った。
「お前、誰だ?」
表情は依然として逆光で見づらい。
だが、口元だけは微かに
窺(うかが)い知ることが出来た。
薄く笑っていた。
俺は固まった。
そんな俺を尻目に田中は踵を返すと、
軽やかに窓枠を飛び越え、
全開の窓から下へ、
一瞬で俺の視界から消えた。
落ちた。
我に返った俺は、
慌てて窓へ駆け寄った。
そして下を覗き込もうとした。
田中は二度死ぬことになるのか、
と思いながら。
しかし、
はたと足を止めた。
※はたと
唐突に。急に。
なぜか、
さっきの『あの田中』が飛び越えた窓には
近づきたくなかった。
そこで俺は、
右隣の教室の一番前の窓を開け、
そこから身を乗り出し、
下を覗き込んだ。
その瞬間、
自分の顔のすぐ左横を、
何かが下へ通り過ぎていった。
それが何かは、
すぐに分からなかった。
その直後、
真下の献花台に叩きつけられた自転車が、
凄まじい音と共にバラバラに砕け散った。
薄暮の中、遠目にではあるが、
それが俺の自転車であることが
はっきりと分かった。
「チッ」
と舌打ちする音。
音がした左斜め上を見上げてみると、
その校舎の壁面には、
ヤモリのように逆さまに四つ足で
へばり付いている田中がそこにいた。
今度は夕日に照らされてよく見えたその顔は、
やはり薄く笑っていた。
その後は体勢を変え、
ササッと屋上へ消えていった。
ケケケと笑う声が聞こえた気がした。
事情は全て先生や警察に説明したが、
誰も信じてくれなかった。
しまいには「藤村が犯人では?」、
などと言い出す奴も出始めたので、
それ以降は口にするのをやめた。
結局あれが何だったのか、
未だに分からない。
(終)