居たはずのクラスメートが実は居なかった
それは修学旅行の往路、高速道路のサービスエリアでのこと。
昼食休憩してから再びバスに乗り込もうとした時、点呼の段階で女子が二人いないことが分かった。
その二人は友達同士で、バスの中でも昼食時も二人横並びでつるんでいた。
二人の名前を仮に『菊池』と『根本』とする。
多分のんびりトイレにでも行っているんだろう・・・と思っていたら、案の定、菊池が「遅れてごめんなさーい!」と言ってバスまで走ってきた。
ところが、相方の根本の居場所を聞かれると、「最初から修学旅行に来ていない」と菊池は言う。
お前は何を言っているんだ
だが、そんなはずはない。
誰もが二人の姿を目撃しているし、バスの席順もわりと目立つ2列目に2人分。
それに、教室での担任による出席チェック、出発前の点呼、休憩時の点呼、全部が記録に残っている。
でも菊池が言うには、今日はずっと一人行動で、バスの隣の席には教頭のおばちゃんがいたのだと言う。
実際には、教頭は隣のクラスのバスに乗っており、菊池の証言以外は全て『根本は欠席していない』を裏付けていた。
なので、菊池が何を言っても「お前は何を言っているんだ?」といった顰蹙(ひんしゅく)の目で見られながら、生徒総動員での根本の大捜索が始まった。
確かに俺も、バスに乗り込む時にその二人が座っているのを見ていた記憶があるので、菊池の話は信じ難い。
しかし、いくら捜しても見つからないので、ようやく担任が学校に問い合わせると、間違いなく当日の朝に欠席連絡の電話が入っていたことが判明した。
誰もが釈然としていないものの、根本の自宅に再確認すると本人が居たということで、よく分からない空気のままバスは出発した。
連絡ミスだけで済ませるには、クラスのほぼ全員が当日に根本の姿を目撃している不思議が残った。
相方の菊池がバスの隣席についておかしなことを言っているのも不思議だった。
さらには、根本どころか菊池の姿が写っている写真さえ誰も撮っていなかったということもあり、修学旅行後は菊池と根本に『空気キャラ』が定着してしまった。
(終)