霊が「出る」との噂があった中国の社員寮にて
これは、中国の江蘇省へ出張に行った時の話。
アパートのようなところを寮にしていたのだが、そこを利用する社員の間では『霊が出る部屋』という噂が立っていた。
部屋は三つあり、奥の部屋は鍵がかけられて使われていなかった。
一番広い部屋に大きなベッドがあったので、同僚と二人でそこを使うことに。
近づいてくる音
ある夜、寝ようとして電気を消すと、シャンデリアが揺れたような「チリチリ」という綺麗な音が聞こえた。
繊細なクリスタルが振動したような高い音。
部屋には確かにお粗末なシャンデリアらしき照明があったが、電気をつけて確認してもシャンデリアは揺れていないし、部屋が明るくなると音がやむ。
同僚と「何だろうね?」と話し合ってみたが、怖くなってきたので「気のせい」で片付けてさっさと寝ることにした。
ところが、いざ寝ようと電気を消すと、しばらくしてまた音が鳴り始めた。
我慢してじっとしていると、そのキラキラ音が次第に大きくなってくる。
気のせい・・・と自分に言い聞かせて必死に目を閉じていたが、直後に背中が凍りついた。
なぜなら、その音が移動し始めたからだ。
最初はベッドの左側、同僚がいる方に音が遠ざかっていく。
次に足元。
そして右側に回り込み、ベッドの周りを這うように俺に近づいてきた。
その時、何か衣擦れのような音も聞こえた。
もう寝るどころではなく、ただひたすら音に集中していると、一瞬だが音がやんだ。
その静寂に思わず息を殺した。
実際には短い時間だったと思うが、生きた心地がしないほど長く感じた。
気のせいではない。
これは何だ?
何か分からないが去ったか?
そう必死に考えている時、突然耳のすぐ近くで「チリン」と音が鳴った。
想像を超えた近さだった。
俺は思わず叫んで跳ね起き、電気をつけた。
電気をつけると、音は一切やんだ。
もちろんシャンデリアを真っ先に確認したが、微動だにしていなかった。
同僚を見ると、彼も真っ青な顔で震えあがっていた。
俺が「今のは・・・」と言いかけると、同僚は頷いて「間違いなく歩いてたよね」と言った。
それから眠れなくなり、同僚といろいろ話し、何の音だったのか?どういう現象なのか?、科学的に説明を付けようとしたが結局は答えが出なかった。
音しか聞いていないが、もしあれが霊だったとすれば、とても古い時代の霊なのではないかと思った。
実際に霊がしっかり見える人からするとつまらない現象かもしれないが、現実にあんなことが自分に起きるなんて信じられなかった。
(終)